「困るのだなあ、こういう人が」「若い連中は、おらだ5年も鉄砲背負わないでぼって歩くのに、今日ばかり来ただけで立前なんてとんでもない、とぼやくしね」

 朝日連峰(山形県)の名狩人が語った「残念なお客さんたち」とは? 1991年の出版当時、65歳だった志田忠儀さん(2016年逝去)の貴重な言葉の数々を記録した『朝日連峰の狩人』(構成:西澤信雄氏)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

熊狩りに参加した「残念なお客さん」の特徴とは? ©写真はイメージです ©iStock.com

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「感度良好」って言うと、「今クマ行ったから気つけろ」ってね。「ほのクマ捕りなら今こっちで終った」ってね。あんなことめったにない。

 クマは尾根を歩くけど、次の地形によって目的地に向かって歩く。最短距離ってわけではないが。この時は沢の対岸に上流向かって歩いていたんだけど、大きなクマだと対岸からこちらに来る時も、沢渡らないで、なるだけ平に歩いて沢の奥まで行ってトラバースして来る。だからそのまま尾根を越さないで、ぐるっと回ってやってくると判断して、待っていたら案の定来たのでうまく撃った。

クマ狩りの経験ない人が立前にいくと困るのだなあ

 クマの来そうな所で待たないとだめだ。だから西村山郡の会長と事務局しているのと両方とも鉄砲撃ちでクレーなんか名人だけど、それが来て、ええあんばいにクマが出て、2人ば立っている方へぼって行ったんだね。

 そしたら、こっちクマいた合図して、前方は前方でクマ登る合図してたんだね。その2人そっちばり見ているのだ。その叫んでいる所にはクマいないんだね。叫ぶほど自分の身近な所にクマいるって、慣れた人なら判断するんだね。野郎共何しているかなって、そっちのはこっち見る、こっちのはそっち見るで、その間さクマ通って行ったの2人ともぜんぜん知らないのだね。「アーア」って聞こえたら、自分たちのそばさクマ来てたんだなあって判断しないとね。斜面急だから真下は見えないからね。

 困るのだなあ、こういう人が。大鳥部落でも、そういうお客さんが一番困るって言っていた。若い連中は、おらだ5年も鉄砲背負わないでぼって歩くのに、今日ばかり来ただけで立前なんてとんでもない、とぼやくしね。