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「困るのだなあ、こういう人が」若い狩人もぼやく始末…熊狩り名人が語った「残念なお客さん」たち

『朝日連峰の狩人』 #2

note

クマは急流を一気に渡ることがある

 普通は平らなとこ歩くのだが、人に追われると、人間なんか手も足も出ないような急流を一気に渡ることがある。川も1メーターや2メーターできかないぐらい深くて速い川を渡る。沢底の石さたずい(摑んで)て向かいさ渡るのかと思うけど、川幅も20メーターぐらいでわりと狭い所だけどね。ある程度一気に跳んで上る。それにしたってあの急流に入れば、2、3秒で相当流されるはずだけど、足跡なんか見れば、対岸から一直線に川を渡っているのだね。いくら体が重くても、あの春の雪解け水だからね。

撃って効果があるのは眉間と3枚目だね

 クマも背骨のどこかやればだいたい死ぬけど、腹なんか貫通して腹わた傷口から出てきて、それ邪魔になって、ちぎって逃げてもちょっと追いつけないね。30分や40分走れば、我々日して(1日)か日して以上かかるからね。とても追いつけないのだね。

 でも腹を切っているから何日かして死ぬね。逃げてる間は必死だから死なない。命中して逃がしたのを他の連中に2つぐらい拾われたみたいだ。何日もすると痛くて動かれないのだな。そして人の声などすると隠れてね、そいつを捕えるのだね。

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 眉間に当たっても、ライフルだと死ぬのだけど、鉛弾だと2つ撃っても脳震盪だけだった。弾は皮を破って、頭蓋骨に当たってベッタリと広がってたね。

 その時は、3メーターぐらいで撃つ場所が悪くって、頭しか見えないで撃ったら、2メーターぐらい跳ね上ってダーッとまくれて(ころがりおちて)行ったから、大丈夫だなあと思っていたらね、行ってみたらいないのよ。まくれてからクマは歩き出したが、ブナの木さまともにぶっかって、また細い木さ突き当たって、そしてとうとう雪消えた中さ入って見えなくなった。

 2人でそこ50メーター間隔で横切ったがいなくって、みんな来てからも探さなくって休憩していたら、どこにいたのか逃げて行くの。後ろから背骨撃って捕ったけどね。

 撃って効果があるのは眉間とか3枚目だね。3枚目とは肋骨の3本目だね。月の輪を撃ったらいいと言うが、なかなか見えないね。立ち上がるなんてことないからね、立ち上がるって時はこっちさ気がついて立ち上がるのだから、ちょっとそんなことないね。