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「結果を出せばどんな働き方でもいい」――ヌーラボ創業者・橋本正徳の型破りな仕事論(後編)

地方発、規格外のイノベーター #2

2018/01/31
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飲み会がきっかけで海外展開

 backlogによって福岡発でIT業界をざわつかせたヌーラボは、2009年にリリースしたオンライン作図・共有サービス「Cacoo(カクー)」で、さらに存在感を高めた。

 ユニークなのは、「デザインや画像を扱うのに言葉は必要ない」、そして「世界に出たら楽しいだろう」と、いきなり海外展開を目指したこと。それまで海外に行ったこともなかった橋本さんだが、知人との飲み会で「まずアメリカに行ってきなよ」と勧められると、すぐにニューヨークで開かれた大規模なカンファレンス「Wordcamp」に出展してそこでCacooをお披露目することを決意。慌ててパスポートを取り、飲み会から2週間後にはニューヨークに旅立った。この作戦が当たった。

「Cacoo」の画面(画像提供:ヌーラボ)

「カンファレンスが11月にあって、年末までユーザー数が500人くらいだったんですが、正月が明けたら8000人になっていました。それで、これはどうした!?と思って調べてみたら、海外のオンラインメディアがCacooのことを取り上げていたんです」

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 これまでにない利便性の高いツールとして最初に海外ユーザーの心を捉えたCacooは、口コミの勢いもあって日本よりも海外で広く認知され、現在、280万人を上回るユーザーのうち海外ユーザーの比率が86%超、その地域も100カ国以上に及ぶ。

 海外でのCacooの人気はヌーラボの成長をさらに後押し。海外ユーザーとの距離を縮めるために2011年にシンガポール、2014年にニューヨークにオフィスを開設した。

アムステルダムに新拠点を構えた理由

 2013年には受託開発の仕事をやめてBacklog、Cacoo、2014年にリリースし、福岡市から「優良商品認定」を受けたビジネスチャットツール「Typetalk(タイプトーク)」という自社サービスの運営に絞った橋本さん。この3本柱のユーザーが順調に増えたことで業績は伸び続け、気づけば社員はグローバルで100名に迫り、そのうちの外国人社員の比率は3分の1に及ぶ。

「Typetalk」の画面(画像提供:ヌーラボ)

 そして、昨年9月には初めてベンチャーキャピタルから1億円を調達。オランダのアムステルダムに新拠点を開設すると公表した。

 なぜ、アムステルダムなんですか? と尋ねて、その答えに思わずのけぞった。

「ドイツのベルリンも検討したんですけど、既にスタートアップが賑わっていて、物価、人件費、家賃とかが早々に上がっていくだろうなと予想していて、うちの役員が、アムステルダムのほうがいいと言ったんですよ。それで、行ったこともないんだけど、だいたいの人は聞いたことがある町だと思うし、僕が好きなテクノミュージックで有名な町だから、まあいいかって感覚で決めちゃいました(笑)」

 もちろん、橋本さんと幹部のなかではアムステルダムが良いというロジックがあるのだろうが、橋本さんがこれまで養ってきた「感覚」を重視しているのは確かだろう。

 振り返れば、「クラウド」という言葉が使われてもいない時期にBacklogという先進的なサービスを生み出したのも、マーケティング調査など一切せず、飲み会の勢いでニューヨークに行き、Cacooをお披露目したのも、常識や先例に捉われていたらできない発想だ。