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「揚げ置き天ぷらの美学」とは…? 立ち食いそばを支える名裏方・天ぷら卸の「一匹狼感」が素敵すぎた

「揚げ置き天ぷらの美学」とは…? 立ち食いそばを支える名裏方・天ぷら卸の「一匹狼感」が素敵すぎた

2023/02/14
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「奇跡としか言いようがありませんでした。その後がまた大変で、1度に11店舗、都内の八王子から、西は辻堂まで注文を取って大騒ぎでした。夜も寝ないで配達して働いていたのはこの頃です」と振り返る。

 平成12(2000)年には東神奈川の「日栄軒」と取引を開始し、他店への販売も拡大していき何とか売上げが安定するまでに漕ぎつけることができたという。ただ平成20(2008)年にはJR系との取引は終了し、売上げは全盛期の約3分の1まで落ち込んだそうだ。

「新規に営業に行って契約しても、他が打ち切りになるという出入りの激しい状況が続いていた」と岩田社長はいう。

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 とはいっても、現在、神奈川県下でいえば、東神奈川駅の「日栄軒」、横浜駅の「鈴一」、桜木町の「川村屋」に卸しているし、東京都内でも文京区小石川の「豊しま」など十数店に卸している。1日2500~3000食を納品しているというから驚きである。そして後述するが、現在は卸だけでなく催事販売への方向転換を図っているという。

東京都文京区小石川にある「豊しま」の天ぷらは「天ぷらいわた」製だ

細かいニーズに応えることが大切

 天ぷら卸というのはどんな仕事の流れなのか興味がある。立ち食いそば屋の朝はとにかく早い。そこで朝3時~4時頃に納品できるように計画するという。つまり、前日の昼間から夜早めの時間で天ぷらを揚げて粗熱をとる。その後梱包して委託配送業者が夜間の配送作業を行うというわけだ。

「天ぷらも各店によって細かいニーズがたくさんあります。揚げ具合や食材の選択など細かい要望にすべて応えて、天ぷらを調理していきます。夏は特に暑いし、冬でもかなり過酷な現場です」と岩田社長。

製造工場で作られた天ぷらたち

天ぷらには4種類ある

 さてここで天ぷらの勉強タイムである。そもそも天ぷらといえばカラッと揚げられたものが喜ばれる。高級老舗そば屋や「てんや」のようなファスト店では、注文してから天ぷらを揚げる。こうした店は「カリッと天ぷら」を目指している。

 もちろん、「普通の天ぷら」というのもある。コロモも普通で揚げ時間も普通、すぐ食べる家庭の天ぷらである。