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「自分の選択は本当に間違っていなかったのか?」元プロ野球選手が不安と戦いながら自分の店を軌道に乗せるまで

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/05/14
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コロナ禍の最中、ベルーナドームに開店した理由

 新しい仕事を始めて3年が経ち、お店も少しずつだけど認知され、軌道に乗りかけてきた2020年。あの悪魔のようなウイルスが世界中を襲った。

 新型コロナウイルスのニュースが連日流れるなか、最初は何だかんだで直ぐに終息すると安易に考えていたが、全然そんなことはなかった。特に飲食業は大打撃を食らった。

 国や行政から「不要不急以外の外出はしないように」と呼びかけられた。飲食店は人が集まる場所だから、感染する確率が高くなってしまうためパタリとお客さんが来なくなった。

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 今から3年前の記憶があまりない。おそらく、いい思いをしなかったからだろう。

 なんとかしなければいけない。でも、どうする? 他のお店はどうしてる?

 そんなことばかりを考えていたのだと思う。

 お店に長く滞在するのは感染のリスクがあるので、テイクアウトを予約して受け取って直ぐにお店を出る。ウーバーイーツのような宅配サービスも普及して生活スタイルが大きく変化した。飲食店は皆、この変化に対応して売り上げを伸ばし、なんとか耐えていかなければならなかった。

 僕も試行錯誤の連続で、いいことは真似してやってみて、ダメだったら次はこれを試してみて、という繰り返し。

 あれ……野球選手の時と一緒だな!

 僕のベースにはやっぱり野球がある。

 今はこいういう状況だから、こうした方がいい。まずはこれでやってみて、違うと思ったら次はあれをやってみよう。

 ケースバイケースで、自分のキャッチャーの経験も活かして物事を考えていくようにした。もちろん絶対的な正解はないけど、「その時その時の最善を尽くす」。この言葉はヤクルト時代の大先輩、古田敦也さんからの教えだ。

 職業は変わっても、前職の野球の経験をセカンドキャリアに必ず活かすことができるのは間違いない。

 現役選手のみなさん、「安心してください。大丈夫ですよ!」(とにかく明るい安村調で)。

 今やっていることは、必ず次のキャリアでも活かすことができます!

 コロナ禍で大変だった3年前、僕にとってターニングポイントになるオファーが届いた。お世話になった球団、埼玉西武ライオンズの関係者からだった。

「こんな世の中だからこそ、野球とスタジアムグルメで所沢の本拠地であるドームを一緒に盛り上げていきましょう」

 こうして2021年の3月、新天地の所沢に移店することが決まった。

 それなりにお金をかけて4年続けたお店だったが、「ぼくは高卒でプロになったので、授業料を払って“大学”でいろいろ学べた」と思うようにした。

 とはいえ下北沢のお店を完全に終わりにするのは勿体無かったので、大好評だったヘルシースイーツを中心にオンラインショップ(ws apartment)を新たに作り、存続させることにした。いずれは「BACKYARD BUTCHERS」の商品も販売できたらいいなと思っている。

 初めてクラウドファンディングに挑戦し、たくさんの方々にご支援・ご協力をいただき、また多くの野球ファンの方々にお店のことを知ってもらい、応援していただいた。本当にありがとうございました。

 コロナの猛威は2021年もおさまらず、野球界も大きな打撃を食らった。無観客試合で開催されたり、観客動員数に制限がかかったりするなか、スポーツ界全体は以前のような元気がなくなっているように感じた。

 スタジアムグルメ挑戦の1年目は、お客さんが少ない中での営業だった。以前と同じ飲食業というくくりでも、スタジアムグルメには全然違う面白さや大変さがあった。やはり初めはうまくいかない事もあったけれど、新しい経験でとても楽しかった。

 一番嬉しかったことは、自分が思っていたよりファンの皆さんが米野のことを覚えてくれていたことです。

「米野さん、こんにちは。現役の時から応援していました。 頑張ってください!」

 中でもよく話してくれたのが、僕の“代名詞”のような一発だった。

「2012年の9回の劇的な満塁ホームランは本当にすごかったです!」

 今から10年以上も前のことが皆さんはまだしっかりと記憶にあるんだなと思い、嬉しかった。本当に色んな意味で、あの満塁ホームランを打ってよかったと思った。

 斉藤一美さん、ありがとうございました!(笑)。(今もよくお店に来てくれます)

 そして素直に嬉しいのが、「米野さん、テレビで見るより実物の方がカッコイイですね」と言ってもらったことです(笑)。

これでこそプロ野球だ!

 2023年。ようやくコロナ禍の制限が大幅に緩和され、野球場にも久しぶりの“春”が戻った。

 3月に行われたWBCで、日本代表が新型コロナウイルスを吹き飛ばしてくれるかのような快進撃で優勝し、更に野球界を盛り上げてくれたおかげもあり、ベルーナドームには一昨年、昨年とは明らかに違う活気がある。開幕3連戦は今までで一番の観客数で、お店も大忙しだった。

 これだ! これだ! これを待っていた! これでこそプロ野球だーーー!!

 今年、プロ野球を引退して7年目。ふと現役選手時代の7年目を思い出した。

 当時24歳だったぼくはスワローズで古田兼任監督の下、はじめて一軍で100試合以上の出場を果たした。さぁ、これからレギュラーを取れる! 最大のチャンスを手にした年だった。

 しかし実力が伴わず、その後はたくさんいただいたチャンスと期待に応えることができず、鳴かず飛ばずの成績だった。17年間という長い現役生活だったが、そのうち3分の2は二軍暮らしだった。正直、悔しさと後悔がほとんどのプロ野球生活だったが、本当に多くのことを学んだ。

 奇跡の満塁ホームランを打った次の日、スポーツ新聞では「13年目の苦労人が大仕事!」みたいな表現をしてくれた。思い描いていた野球選手にはなれなかったけれど、今となって振り返れば、僕を確実に成長させてくれた出来事ばかりだった。

「苦労は買ってでもしろ」という言葉があるが、失敗からたくさんのことを学び、これからも失敗しまくって学びまくっていこうと思う。

 そんな米野智人をどうぞこれからもずっと、よろしくお願いします。

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