なぜ、あのホームランは生まれたのか?

 2012年4月26日、ヤフードーム(現PayPayドーム)。あれからちょうど9年の年月が経つが、今でも時々思い出すことがある。

 ピッチャーはソフトバンクホークスの絶対的守護神ファルケンボーグ。当時、「ファルケンボーグから点を奪うのは不可能だ!」と言われていたほどだ(来日した2009年から4年続けて防御率1点台!)。

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 あれから9年経った今、なぜ僕はあの日逆転満塁ホームランを打つことができたのか、改めて考えてみることにしよう。

現役時代の筆者 ⒸSEIBU Lions

中村が敬遠され、ゾーンに入った

 ライオンズの先発はルーキーの小石博孝投手で、プロ初登板初先発だった。

 試合前、「緊張してる?」って聞いてみたら、「いいえ、全然緊張していません」。「嘘だろ? 本当かよ! 俺は2軍の試合でも緊張するよ」と会話したことを覚えている。

 試合が始まり、僕はベンチスタート。当時のチーム状態はあまり良くなかった。開幕から1ヶ月が経っていたが、勝ちから見放されることが多く、5勝12敗と負けが込んでいた。苦しいチーム状態のなか、ライオンズファンは一生懸命応援してくれていたので、選手たちもその想いに応えようと必死だった。

 試合は初回に先制したホークスがリードしたまま終盤に突入し、3対1で9回表、ライオンズの攻撃を迎える。この回からマウンドに登ったファルケンボーグに対し、なんとかチャンスを作り2アウト2、3塁。打席に主砲のおかわり君こと中村剛也選手が入ると、ホークスバッテリーは敬遠のフォアボールを選択した。

 この場面で打席が回ってきたのは、6回から途中出場していた“決意のコンバート男”こと僕、米野智人。

 ネクストバッターズサークルで中村選手への敬遠のフォアボールを見て、「それはそうだよな」と思いながらも、「見てろよ!」と密かに闘志を燃やしていたのが“決意のコンバート男”だった。

 この時、今思うと、“ゾーン状態”というものに入っていたのかもしれない。トップアスリートにあるといわれる現象だ(僕はトップアスリートではないが……)。それくらい集中力が高まり、神経がかなり研ぎ澄まされていたと思う。

 1球見送った後の1ボールからの2球目。芯で捉えた打球は手応え十分で、打った瞬間に入ったと確信した。

 後から映像を見直したら、思っていたよりギリギリのホームランだったが……(笑)。