マウンドに登れば威風堂々とした投球を続ける一方、ヒーローインタビューのマイクを持つと大きな体を“ふにゃふにゃ”くねらせ、おっとり言葉を紡ぐ。西武の右腕投手、髙橋光成の“ギャップ”がファンを魅了している。
高卒7年目で自身初の開幕投手を務めた今季は4試合登板時点でリーグトップタイの3勝をマーク(4月19日時点)。オープン戦から投球フォームの安定感が目に見えて高まり、好調の要因を知りたくて開幕戦で勝利した4日後に話を聞いた。
「フォームの再現性は、ずっとテーマとしてやってきたことです。今もシャドーピッチングを続けたり、それにフォーカスした練習を行なっています」(詳細は『Web Sportiva』の記事を参照)
髙橋がブレイクしたのは2年前の2019年で、自身初の二桁勝利を挙げた。飛躍の裏にあったのが、先輩で憧れの菊池雄星(現マリナーズ)の影響だ。文春野球では上岡真里江さんがレポートしている。
「僕は、環境によって、ヒョイヒョイ意志が揺らいでしまうところがあるんです」
“ふにゃふにゃ”しながら話したかは不明だが、髙橋は上記記事で精神面の弱点を明かしている。そうした部分を菊池の薫陶を受けながら改善してきたことに加え、もう一つ、先輩に導かれた出合いが今季の好調に関係している。
今、プロ野球選手たちに人気の“野球塾”だ。
野球を勉強し、前向きになった
動作解析プログラムを提供するネクストベース社はコロナ禍の昨年6月、プロ投手向けのセミナーを始めた。毎月1回、30~40分ほどオンラインで開催される。最多勝投手や新人王、ドラフト1位で入団した若手のホープをはじめ、噂を聞きつけた首位打者や捕手も加わり、毎回約40人が熱心に耳を傾けているという。
講義のテーマは「高め」「初球」「ピッチデザイン」「スプリット」……。
BS1の人気番組『球辞苑』を彷彿とさせるような切り口だが、それもそのはず、登壇するのは同番組でもお馴染みの体育学博士・神事努氏だ。
「近年、スポーツ界はテクノロジーの進化によって大きく変わっています。選手がデータそのものを使えるような時代になってきたので、個人がそういうことを知って成長していくことがものすごく重要です」
バイオメカニクスやテクノロジー、データ活用などと聞くと小難しく感じるかもしれないが、これらは野球の醍醐味を映し出す“鏡”になる。メジャーリーガーのダルビッシュ有(パドレス)やトレバー・バウアー(ドジャース)から無名の高校球児まで、今、科学的なアプローチを活躍につなげている選手は少なくない。
もともと「感覚が鈍い」という髙橋はネクストベースのセミナーに初回から参加し、パフォーマンスの向上に役立っているという。
「アナリストの方にデータを出していただいて、『こういうボールはファウルになりやすい』『このカウントでここに投げたら空振り率が高まる』と配球の組み立てにもつながっています。今も言葉に出すことは得意ではないですけど、少しずつ言語化できるようになってきました。自分で野球を勉強して、知識も増えてきて、それがどんどんいい方向に行っています。もっと良くなるためにはどうしたらいいのかと考えたり、前向きになりましたね」