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野球エリートたちが学ぶ講義内容

 普段、國學院大學で教壇に立つ神事“先生”の講義はわかりやすく、耳に入ってきやすい。自身で「神回だった」という第2回の「初球」について、ざっくり再現してもらった。

「初球にストライクを取るか、取らないかで、その後の打球の速度と角度が全然違うんです。飛距離で言うと、打たれた後の距離が6メートルくらい違う。そうすると、初球でストライクを取らないと、急激にリスクが高くなります」

 神事先生の講義は熱を帯びる。

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「ゴロピッチャーの人は『自分は空振りをあまり取らないから関係ない』と思うかもしれないけど、2ストライクに追い込むと、打球の角度も下がるんです。バッターは三振したくないから、追い込まれると打つポイントが近くなる。結果的にゴロが増えていきます。だから、ゴロピッチャーも早めに追い込むのはすごく大事です」

 では、初球はどう入るべきだろうか。

「美馬(学/ロッテ)さんの場合、外角からバックドアでスライダーやカーブを入れ始めたりしていますね。バッターによっては全然振ってこない選手もいます。それなら、初球でストライクを取るのが大事。一方、柳田(悠岐/ソフトバンク)選手は初球のストライクのスイング率が70%くらいあります。だから、初球をゾーンに投げるのは危ない。そうやって、人によって整理することも重要です」

 こうした講義が毎月行われ、プロ野球選手たちが熱心に学んでいるという。昨今、研究者やテクノロジーの成果で野球の真髄がどんどん解明されており、今を生きる選手たちは身体能力や技術を磨くと同時に、いかに頭を使うかが求められているのだ。

「野球、大好きです」

 もともとデータの知識や興味が特段強かったわけではない髙橋だが、神事氏によると、「弊社と契約するときも、この勉強会が一番良かったと言っていました」。

 2019年シーズンオフに契約した当初は受け身だったが、「カットボールをどうすれば改善できるか」「投球フォームのどこに課題があるか」など、徐々に自分から質問することが増えていったという。

 向上心の現れとして、今季開幕前にはボールの回転数や変化量の測定機器「ラプソード」を約75万円で購入したことがニュースになった。髙橋の成長サイクルについて、神事先生にはこう映っている。

「ラプソードを自分で買うこともそうですが、データを見ながら『今回はこれができるようになった』と、自分の技術の“できる・できない”が見える化されて、フィードバックされる作業が面白いのだと思います。テスト勉強でもドリルをやって、試験で“ここができた”という満足感や面白さがモチベーションになっていきますよね。光成さんはそういうループが回っている状態だから、野球が面白くなっているのではと思います」

 実際、髙橋は今、野球が楽しくて仕方ないという。

「子どもの頃より今のほうが好きかもしれないです。野球、大好きです」

 そう言うと、屈託のない笑みをこぼした。

 子どもの頃、好きで始めた野球で才能を発揮し、高校2年時に甲子園優勝投手になった。そうして2014年ドラフト1位で西武に指名され、憧れの先輩に好影響を受けながら野球への興味を深め、今はテクノロジーを使いこなしながら学びを深めている。そうして投手として、心身に図太い幹ができてきた。

 “ふにゃふにゃ”した男が育んできた純粋な心と、野球への研究心。二つの要素が一点に交わり、髙橋は今、西武のエースに限りなく近づいている。

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