「清純派」――その言葉からイメージされる俳優は数多い。サッカー日本代表・長友佑都の妻である平愛梨の年が離れた妹「平祐奈」もその一人だ。黒髪、控えめな佇まい、無垢な笑顔。彼女の名前が出れば、自然とそうしたイメージが浮かぶ。

 平祐奈は是枝裕和監督作品『奇跡』(2011年)のオーディションに合格して芸能界入り。その後は「おはガール」などにも抜擢され、映画『青空エール』(2016年)や『honey』(2018年)、『10万分の1』(2020年)など、思春期の揺れ動く感情を繊細に描いた作品群では常に観客の“守りたくなる存在”として登場してきた。

キリンカップサッカー2016の日本代表対ブルガリア代表戦を姉・平愛梨(写真左から2人目)と一緒に観戦した平祐奈(下段右)。

 そこから一転、2025年公開の映画『ネムルバカ』で、彼女はこれまでのイメージを覆す役を演じた。彼女が扮するのは、インディーズバンド「ピートモス」のギターボーカル・鯨井ルカだ。金髪、ぶっきらぼう、時にやさぐれた態度のルカは、夢を追うことの痛みや空しさに苛まれながら、それでも音楽への情熱を抱き続けるロックバンドのフロントウーマンである。このキャラクターは、平のこれまでのキャリアにおいて、明らかに「異物」といえる存在だと筆者は考える。

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俳優、サッカー選手、政治家……華麗なる一族の末っ子

 なぜ、鯨井ルカ役が平祐奈のキャリアにおいて「異物」なのか。その理由を探るには、彼女の背景に触れないわけにはいかない。

 平祐奈は1998年、兵庫県生まれ。6人きょうだいの末っ子であり、最も年の離れた長男とは19歳差。14歳離れた長女は俳優の平愛梨で、もちろん義兄にサッカー選手・長友佑都もいる。この他、東京都議を務める兄もいるなど“華麗なる一族”である。

 芸能界との距離感が元々近い存在であった一方、彼女の家庭には“平家のルール”と呼ばれる独自の価値観が存在していた。