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「我々はあくまでも勝たねばならぬ」ベルーナドームの通路に刻まれたメッセージの謎に迫る

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/05/06
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 西武球場前駅の改札を抜けてベルーナドームの入場ゲートへ歩みを進めると、右側上部の巨大な真っ白い獅子の像が目に飛び込んでくる。

 松崎しげるさんが歌う「激しく 雄々しく 美しく」をそのまま具現化したような、大きな真っ白い獅子の姿を見るだけで「ライオンズ戦、観に来たゾ!」と、間違いなく気分は上がる。

 本格的な石窯で焼いたクラフトピザを片手に、ビールでも飲みながら愛するライオンズの試合を堪能できるとなれば、最高のゴールデンウィークの1日になること間違いなしだ。

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 2017年から改修工事を重ねてきたライオンズの本拠地ベルーナドーム。2021年に完了し、入場ゲートだけでなく、グッズ売り場や球場グルメの店舗、子どもたちが遊べるエリアなど多くの施設が新しくなった。

 今まで以上に楽しめるボールパークへと生まれ変わり、ファンの多くは、冒頭で記したような高揚感で観戦を楽しんでいると思う。

 実は、一新されたのは観客向けエリアだけではない。選手や球場関係者もより快適に利用できるよう、球場の内部も改修されたのだ。

 選手たちがロッカーからベンチへ移動する際に使う、バックネット裏内部のバックヤード通路もその一つ。ライオンズファンには、球団公式Youtubeの「選手とハイタッチ気分!」動画で目にする真っ白い壁の通路と言えばわかっていただけるのではないか。

 入場ゲートで出迎える獅子の像と同様に眩い白さを放つ通路を、勝利の余韻と共に笑顔で通過していく選手たち。時にはカメラの前で小ネタを挟んでくれる選手もいる。ライオンズファンならそんな選手たちの表情に釘付けだろう。

 去年「劇団獅子」の動画を見るようになった私は、「選手とハイタッチ気分!」動画も時折観ていたのだが、気づけば選手ではなく、背景が気になり出した。

 後ろの白い壁に何かが書いてある?

 最初は失礼ながら「バットやカバンが擦れた汚れか」と思ったが、やはり文字に見える。気になった私は、今年から新型コロナウイルスによる取材規制が大きく緩和されたことを受け、4年ぶりにベルーナドームの内部に足を踏み入れた。

 3月8日、本拠地で今年初めてのオープン戦。久しぶりに選手たちを直接取材する……のではなく、真っ先に白い壁が続く通路に足を向けた。

源田、外崎が受け取った意味

 やはり壁には、様々な言葉が書いてあった。たどっていくと、選手ロッカーのあるセンタービルへと伸びる階段から始まっている。

 階段部分に4つの言葉が書かれている。階段をくだり、ホームの三塁ベンチ方向へ伸びる白い通路――「選手とハイタッチ気分!」動画が撮影されている場所には、5つの言葉が記されていた。合わせて9つのメッセージ。折角なので全てご紹介したい。

我々はあくまでも勝たねばならぬ、王者にならねばならぬ。
獅子はウサギを追うときにも全力を挙げてこれを倒すという。
ペナントレースの優勝はひとつひとつ積み重ねていく勝ち星の上に栄光の差がある。
アマは和して勝ち、プロは勝って和す
王者にならねばならぬ。また、王者の道を歩み続けなければならない。
各人は各自の名誉とチームの名誉を守り通す強烈なファイトを持て。
歴史は勝者によって語り継がれていく 敗者であるより勝者たれ。
プレーの粗雑は球に慣れて平凡を馬鹿にする心の油断と、一流になりかかったときによく起きる。
野球は筋書きのないドラマである。

(原文ママ)

 どの言葉からも強いメッセージ性を感じる。いずれも白い壁に白い文字で記されており、改修以前にはなかったものだ。

©岩国誠

後日、「2022年からですね」と教えてくれたのは、WBCから戻ったばかりのキャプテン・源田壮亮。「我々はあくまでも勝たねばならぬ、王者にならねばならぬ。」というメッセージに、強いシンパシーを覚えるという。

「勝たないとファンの方も喜んでくれないので、とにかく勝てるようにというところですね。みんな勝つためにやっていますし、勝ってファンの方に喜んでもらえるのが一番なので」

 上記のメッセージからこんなことも思い浮かぶという。

「伝統を感じますね。ライオンズは何連覇もしていたチームですし、入団した時から『ライオンズは常勝軍団』っていう話を何度も聞いてきました。プロに入って何年もやってきて、連覇することがどれだけ難しいかもわかった中で、やっぱり勝たないといけないという思いは年々強くなっています。そういう意味で、この言葉はいいですね」

 副キャプテン・外崎修汰にも話を聞くと、「プレーの粗雑は球に慣れて平凡を馬鹿にする心の油断と、一流になりかかったときによく起きる。」というメッセージに共感していた。

西武の副キャプテンを務める外崎修汰 ©岩国誠

「143試合を戦っていると“慣れ”が出てくる。いい慣れも悪い慣れもあると思うんですが、確かに自分の中に『悪い慣れがあるな』と思う時がありますね。油断しているつもりはないですけど、この文字を見て歩くと『確かにな』って再確認できる。そういう点ではすごく“いい道”になっていると思います」

 チームの代表として、キャプテンと副キャプテンの反応をご紹介した。他の選手たちも程度に個人差はあれど、壁にメッセージが記されていることは認識しており、概ね好評だった。

 それぞれの文章や単語から多くの選手がなにかしらを感じて、自らの考えを話してくれた。“勝者”や“王者”など勝ちをイメージする単語が多いことから、勝つことへの意識について口にする選手が多かった。

 選手たちに話を聞いているうちに、新たな疑問が湧いた。9つのメッセージは誰の言葉なのか。発言者の名は書かれておらず、選手たちも知らされていないというのだ。

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