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「我々はあくまでも勝たねばならぬ」ベルーナドームの通路に刻まれたメッセージの謎に迫る

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/05/06
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“意味深”なメッセージの主

 メッセージ性が強いにもかかわらず、誰の言葉なのかわからない。しかも、白い壁に決して見えやすくない白の文字で記していることも、なんらかの理由があるはず……。

 目の前の試合を見ながら、そんな疑問は膨らむばかり。ひとまず球団広報に質問を投げかけてみた。

「9つのメッセージは全て、ライオンズの初代監督・三原脩さんの言葉です」

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 球団広報を通じて、この企画を立案した球団本部チーム統括部の担当者がメールで回答をくれた。

 三原脩――。

「知将」「魔術師」と呼ばれた名監督で、最近ではWBC日本代表を世界一に導いた栗山英樹監督が日本ハム監督時代から心酔していたことでご存知の方もいるだろう。球団が「ライオンズ」と名乗り始めた草創期、1951年から59年まで監督を務め、リーグ優勝4回、日本一3回を達成している。

「1950年にパ・リーグへ参戦して以来、パ・リーグ最多23回のリーグ優勝。そして日本一13回という成績を残してきました。選手たちには、今所属している球団がそうした歴史ある球団であることを知ってほしいですし、そうした球団でプレーしている誇りを持ってほしい。代々受け継がれてきたライオンズの“魂”を感じ取ってほしい。そういう思いから企画しました」(ライオンズ担当者)

 先人が築き上げてきた土台の上に、今のライオンズはある。三原監督の言葉から、そうしたものを感じ取ってほしいということだが、それならはっきり読める色で言葉を綴ったほうがより伝わるのではないか。

「三原監督の言葉を今の選手たちに押し付けることなく、その上で何かを感じてもらえたらと思って、目立たない配色でメッセージを掲示しました」(ライオンズ担当者)

 人から与えられたものは身につかない。時にはこうした言葉たちがプレッシャーになることもあるだろう。先人たちが作り上げてきた土台に敬意を払いながら、今を戦う選手たちへの気遣いも忘れない。どちらも大切に考えている球団サイドの愛情が、白い文字のメッセージに込められていると感じた。

WBCに台湾代表として出場した呉念庭 ©岩国誠

東京ドームで感じた「言霊」

 メッセージを白い文字で記すというアイディアは、東京ドームにある野球殿堂博物館の図書室からヒントを得たという。実際に見にいくと、図書室の上部に同じ配色で様々な文字が記されてあった。

 刻まれた文章を一つひとつ読んでいくと、ベルーナドームでも書かれていた言葉を見つけた。

「野球は筋書きのないドラマである」

 何度も耳にしているこの言葉を文字で見たときに、「そうだよな」と改めてうなずく自分がいた。メッセージの中には初めて目にする言葉もあったが、どれもが心に響いた。「言霊」と言われるが、文字にすることで言葉に魂が宿るものなのだと強く感じた。

 先に「発言者の名前が書かれていない」としたが、実はメッセージが始まる階段入り口の白い壁にひっそりと、これまた白い文字でこう記載されていることを担当者から教えられた。

「獅子の名言 ライオンズ初代監督 三原脩」

 ライオンズ草創期の指揮官、三原脩から届けられた9つのメッセージ。現代を戦う獅子たちは、名将の魂が宿る名言から、どんなことを感じながら長いシーズンを戦っていくのだろうか。この先、見せてくれるであろう数々のドラマの中に、答えを見つけられるかもしれない。

球団職員が「働きやすい環境を整えてくれる」という渡辺久信GM ©岩国誠

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