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「出ていけ!」投げつけられる火炎瓶、雨の後に漂う“催涙弾の香り”…年金改革で街を燃やした“犯人”

2023/05/08
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参加者11万2000人。うち暴徒は2000人ほど

 いよいよナシオン広場が見えてきたところで、再び隊列は止まった。先を見ると、広場の方からは催涙弾の発射音が聞こえ、白煙が上がっている。黒い煙も見えるので火もつけられているらしい。道の端には戻ってくる人の流れもできている。

パリ市の電動掲示板

 聞けば暴徒が激しく衝突しているため機動隊が道路を塞いでいるらしい。ナシオン広場は、パリを東西にまっすぐ横断する道路の西の凱旋門のあるエトワール広場に対応する東の広場で、かなり幅広い道路が通っている。そのためか幸い催涙弾の煙はこちらの道までは流れてこない。

 脇道から機動隊の一群が割って入って道路を横断した。いつもなら罵声や口笛につつまれるのだろうが、ほとんどない。参加者にとってはせっかくのデモをグチャグチャにしたブラックブロックに対する怒りの方が大きい。

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機動隊がデモを横切って移動する

「きっと暴徒だけがクローズアップされて報道される。こうして権力は民衆の支持をなくそうとするのさ、黄色いベスト運動でも同じだった」

 傍らの人が吐き捨てるように言った。「今日はこれでおしまいだな」というので、一緒に脇道に入って隊列を離れた。

 大回りして、デモコースの真ん中あたりにもどると、もはや人通りは少なく残骸だけが残っていた。清掃の車列が来た。まだナシオン広場では騒動がつづいている。夜に入ってゲリラ的にオペラ座近くなどにも出没しているらしい。

デモが終って清掃される現場

 きっと日本でも「デモが暴徒化して」といって報道されるのだろう。だが、違うのである。内務省発表でパリの参加者11万2000人、暴徒は2000人ほどだ。

 雨の中デモがずっと止まっていたが、機動隊が先導して暴徒集団とデモ隊を完全に分離したらしい。乱暴狼藉の現場から距離を置いて、市民の権利であるデモだけは最後までやらせようということだろう。

 そして市民も静かにデモをする。シュプレヒコールや派手なパーフォーマンスはいらない。ただたくさんの人が歩くことに意義がある。民主主義に欠かせない歯車だ。

撮影=広岡裕児

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。

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