韓国政府は3月31日、「2023年北朝鮮人権報告書」(以下、報告書)を発表した。2017年から2022年までの間、韓国入りした脱北者508人の対面聞き取り調査を元に作成した445ページの記録である。そこに書かれていた“北の悲惨すぎる現実”とは……。長年、北朝鮮問題を取材する現地ジャーナリストが解説する。
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北朝鮮が恐れる「黄色の風」とは
韓国では16年に「北朝鮮人権法」が制定されたが、報告書を発表したのは今回が初めてである。17年に発足した文在寅政権では一回も公開されてこなかった。対北朝鮮に厳しいスタンスを取る尹錫悦政権に代わり、北朝鮮人権問題に厳しい態度を取るアメリカに歩調を合わせる形で、今回公開に至ったものだ。尹大統領は公開にあたり、「北朝鮮住民の悲惨な人権蹂躙の実状は、国際社会に一つ一つ明らかにならなければならない」と強調している。
北朝鮮は以前から、資本主義文化を「黄色の風」として厳しく遮断してきた。若者などが韓国など外国のドラマや映画、K-Popに憧れると、そこから「資本主義風潮」が広がり、体制維持に悪影響が出ることを懸念しているのだ。
では北朝鮮の当局が「黄色の風」を遮断しようとする中で、どんな歪みが生まれているのか。報告書とこれまでの私の取材から、その異様な内実を明らかにしていこう。
ドラマを見ると死刑、肖像画を指さしても死刑…
北朝鮮当局は国境地域を中心に流入する資本主義文化を遮断するため、2020年に「反動思想文化排撃法」を制定し、西欧文化の流入を厳しく取り締まった。
外部情報との接触、保管、流布に対して労働教化刑(懲役刑)が10年まで科せられるようになり、特に韓国ドラマ、映画、音楽を見たり聞いたり保管したりした場合には死刑に処されるという。さらに、