韓国政府は3月31日、「2023年北朝鮮人権報告書」(以下、報告書)を発表。2017年から2022年までの間、韓国入りした脱北者508人の対面聞き取り調査を元に作成した445ページの記録である。
そこに書かれていたのは、文字通り人権が蹂躙される凄惨な社会。長年、北朝鮮問題を取材する現地ジャーナリストが解説する。
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「脱北当時、私は16歳の少女でした」
前編で見たように、あまりにも軽薄に人が残忍な手法で殺害される状態が、現在の北朝鮮の日常である。そして、そうした社会では得てして、“弱い立場”の人々に牙が向けられている。
「私が中国を目指したのは、生きるためでした。配給も全くなかったし、中国に行けば食いつなぐことができるという噂を信じるしかなかったんです。そのころは駅の前に『中国に行けばお金も稼げるし食事にも困らない』と脱北を斡旋する40代くらいの女性がいて、その女性を頼って中国に到着したら、現地にいたのは人身売買のブローカーでした。
そのブローカーから『中国人男性に嫁いで暮らす以外に仕事はない。逃げれば強制送還されて銃殺刑が待っている』と脅され、もう帰れなくなってしまったんです」(証言より)
「脱北当時、私は16歳の少女でした。北朝鮮にいた頃はできることを全てやっても、いくら頑張っても家計が赤字で……。あるとき、中国に行くとお金を稼いで地元にも帰ってくることができると言われ、ある女性を紹介されました。
その女性が『中国に行ったら嫁に行かなくてもいい。就職の面倒も見るから、金を稼いで北朝鮮に戻ってくれば良い』と言うので頼ったものの、結局この人が人身売買のブローカーで、私を中国人男性に売り渡したんです。いくら抵抗しても後の祭りで、まだ子どもだった私にはどこかも分からないところで助けを求める方法はありませんでした」(証言より)