私の取材でも同様のエピソードを女性脱北者たちから聞いたことがある。かつて実際に中国から送還された北朝鮮の女性らがそうやってお金を隠していたようで、本当にお金がないかどうか、こうして検査をしているのだという。
こうした状態に加え、性暴力も頻繁に行われていた。
「2016年、私は両江道にある拘留場で看守に強姦されました。夕方『出て来い』と倉庫に連れられて、反抗すると殴って刑期を延ばすと脅し、強制的に服を脱がされ襲われたんです」(証言より)
女性兵士にも性的暴行「もし告げ口をしようものなら…」
こうした性暴力の被害は、体制の中にいる女性たちも例外ではない。ある証言では、軍部にはびこる被害の実態が明らかにされている。
「男性上官による女性兵士への性的暴行が一度や二度でなく起こります。幹部20人余りが労働党に入党させてやるなどと様々な利権を悪用して、女性兵士に常習的に性的暴行を加えました。
彼女たちも、もし拒否すれば難しく大変な部署に配置されることがわかっていますし、誰かに告げ口しようものならむしろ本人に被害が出る可能性もありますから、幹部たちの性的な要求を断ることはできませんし、大きく問題を提起しないようです。幹部に対する処罰はありませんでした」(証言より)
国連に提出された北朝鮮の“ウソ”
19年に北朝鮮が国連に提出した国別普遍的・定例的人権検討(Universal Periodic Review)では「生命権は社会主義憲法、刑法およびその他の関連法律によって保障され検察、司法および公安機関によって保護される」としている。
だが、今回の報告書で分かるとおり、それは虚偽でしかない。今回明らかになった真実は、これでもなお、目を背けたくなるほど凄惨な日常の一端にすぎないのだ。実際、脱北者らは「北朝鮮では“人権”という言葉自体を一度も聞いたことがないし、意味さえわからなかった」と口を揃える。
韓国の政府は今回の報告書とは別に、11月ごろに北朝鮮の経済活動、住民意識などに関する内容が盛り込まれた「北朝鮮経済・社会実態報告書」を発刊する予定だという。