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笑顔で少女に接するヒトラーの写真に1万超の「いいね」…現代の日本人さえも虜にするナチスのイメージ戦略

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genre : ニュース, 国際, 政治

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ヒトラーを「悪の権化」とする見方が一般化するなかで、一見意外な彼の「優しい心」が多くの人びとに驚きと共感を呼んでいる様子がうかがえる。もちろんヒトラーも一人の人間であり、可憐な少女に優しく接することはあっただろう。彼を狂気の独裁者として悪魔化し、そこにのみ戦争とホロコーストの原因を見出そうとするのは間違っている。

だが逆に、少女との心温まるエピソードだけをもってヒトラーやナチズムの本質を理解した気になるのも問題である。というのも、この「子どもに優しいヒトラー」というイメージはナチスの宣伝が意図的に作り上げ、民衆の共感と信頼を呼び起こすのに利用したものだったからである。

まんまと宣伝に乗せられた迂闊な反応

ナチ政権下では、笑顔で子どもと触れ合うヒトラーの姿は写真報道のお決まりのテーマとなっていた。なかでも1933年夏にオーバーザルツベルクの山荘の近くでヒトラーの目にとまり、たびたび山荘に招待されることになったベアニーレという名の金髪の少女との交流は、様々な媒体で紹介されて注目を集めた(先の投稿で挙げられていたのもこの少女と交流する写真である)。

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実は交流が始まって数年後、少女の祖母がユダヤ人であることが判明し、ゲシュタポがこれを問題視するという事態も生じていたのだが、彼女と親しく交流するヒトラーの写真の宣伝効果が大きかったため、その後も写真の流通は止められず、山荘への招待も続けられたのだった。

こうした事情を踏まえると、ヒトラーと少女との関係にもっぱら「優しい心」を見出すのは短絡的で、まんまと宣伝に乗せられた迂闊な反応と言わざるを得ないのである。

ナチスの宣伝が作り上げた「子どもに優しいヒトラー」というイメージは、彼の絶大な人気の基盤をなすものだった。

「ヒトラーにも優しい心がある」と思いたい

ヒトラーは他の政治家と違って民衆と同じ心をもつ誠実な人間で、それゆえ間違ったことをするはずがないと多くの人びとに信じられていた。ヒトラーは庶民的で情け深い指導者を演じ、宣伝を通じてそのイメージの普及につとめたが、民衆の側も自分たちと変わらない人間的な指導者をもとめ、その願望を総統の等身大の姿に投影した。

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