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笑顔で少女に接するヒトラーの写真に1万超の「いいね」…現代の日本人さえも虜にするナチスのイメージ戦略

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genre : ニュース, 国際, 政治

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誰もがもつ親しみの感情を媒介にして、ヒトラーと民衆は情緒的に結び付いていたのである。人びとの共感と信頼をかき立てるこの親密なイメージが、ヒトラーの暴政を可能にした原因の一つだったことは明らかである。「ヒトラーにも優しい心がある」と思いたい、そういう心情こそがナチ体制にとって重要な政治的資源だったと言えよう。

ヒトラーも一人の人間で、角の生えた悪魔ではなかったというのはたしかにその通りだろう。だが仮にヒトラーに「優しい心」があったとしても、それはユダヤ人虐殺を命じた事実を否定する根拠にも、免責する理由にもなり得ない。

しかも彼の「優しい心」を知ったところで、ナチ体制の何か「新しい」側面が見えてくるわけでもない。もし見えてくるものがあるとすれば、そう信じたいという気持ちこそが、まさに当時(そしておそらくは現在でも)ヒトラーやナチスへの支持を調達する重要な手段だったということだろう。

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ドイツの女性たちは熱狂していたのか

ところで、子どもに加えてもう一つ、同じような目的から政治的に利用されたグループがある。女性である。パレードするヒトラーの車列に目を輝かせ、歓喜の声を上げ、腕を振り、涙を流す女性たちの映像は、現在でもドキュメンタリー番組などで目にする機会が多い。

「女性は男性よりも熱狂的にヒトラーを支持していた」と信じる人びとは、現在でも少なくない。だがウーテ・フレーフェルトは、ナチスによる「熱狂」の演出の背後に「感情のジェンダー化」というメカニズムが存在していたことを指摘する。

女性と子どもはどのみち感情的な存在であるとされていたため、「ポジティブな感情をおおっぴらに思いのまま見せることが許された。彼女らの感情の爆発と歓喜は、政権とその総統への公衆の支持(と賞賛)を証明するのにおあつらえ向きだったのである」。

一方、ドキュメンタリー映像に映し出される男性の多くは、「隊列を組んで行進し、硬くこわばった表情で揺るぎない決意と献身を表現」している。男性は「感情を抑え情念を支配」し、場合によっては「有能な大量殺戮の道具」となることをもとめられた。こうした「感情のジェンダー化」を効果的に利用したのがナチ体制だった。

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