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笑顔で少女に接するヒトラーの写真に1万超の「いいね」…現代の日本人さえも虜にするナチスのイメージ戦略

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genre : ニュース, 国際, 政治

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「感情のジェンダー化」という固定観念

女性の熱狂的な支持や子どもとの交流を強調することは、男性を主体とするナチスの攻撃性と暴力性をマイルドなものに見せるのに好都合だった。そうしたナチ体制による政治的演出を真に受けてしまうと、「感情のジェンダー化」という固定観念もそのまま受け継いでしまうことになりかねない。

もっとも、人びとの熱狂は単なる宣伝で、現実を反映していないと言いたいわけではない。実際、ヒトラーに対するドイツ国民の支持は、老若男女関係なく、非常に大きなものがあった。

問題なのは、その「熱狂」の内実を問うことなく、これをナチズムの「魅力」の証左と受け取ってしまうと、たちまちのうちにナチ・プロパガンダの術中にはまってしまうことだ。

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ナチズムを心温まる物語に矮小化することは、その本質から目をそらす危険性をはらんでいる。子どもに親しく接し、女性から熱狂的な支持を受けるヒトラーの姿に心動かされ、共感を覚えそうになるとき、それがナチ体制にとって都合のよい反応ではないかどうか、一度立ち止まって考えてみるべきだろう。

田野 大輔(タノ・ダイスケ)
甲南大学文学部教授
1970年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(文学)。大阪経済大学人間科学部准教授等を経て、現職。専門は歴史社会学、ドイツ現代史。著書に『ファシズムの教室 なぜ集団は暴走するのか』(大月書店)、『愛と欲望のナチズム』(講談社)、『魅惑する帝国 政治の美学化とナチズム』(名古屋大学出版会)などがある。
小野寺 拓也(オノデラ・タクヤ)
東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授
1975年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。昭和女子大学人間文化学部専任講師を経て、現職。専門はドイツ現代史。著書に『野戦郵便から読み解く「ふつうのドイツ兵」第二次世界大戦末期におけるイデオロギーと「主体性」』(山川出版社)、訳書にウルリヒ・ヘルベルト『第三帝国 ある独裁の歴史』(KADOKAWA)などがある。
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