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コロナワクチン開発でノーベル生理学・医学賞受賞…カタリン・カリコ博士が明かした「波乱万丈の研究秘話」

コロナワクチン開発でノーベル生理学・医学賞受賞…カタリン・カリコ博士が明かした「波乱万丈の研究秘話」

カタリン・カリコ博士インタビュー #1

2023/10/06

source : 文春新書

genre : ライフ, 社会, 国際

note

 実際に私がワクチン接種を受けたのは12月18日でした。FDA(米国食品医薬品局)が緊急使用許可を出した1週間後です。ペンシルバニア大学でワイスマン教授と一緒でした。部屋には医師や医療関係者たちが接種の順番を待って並んでいました。私たちも今までの研究の道のりを振り返って話しながら、順番待ちをしていました。

 隣の部屋で接種を終えて出てきたら、みんなが待ち構えていて拍手で出迎えてくれたのです。このときばかりは、いろんな感情がわいてきて、涙があふれるのを止められませんでした。

RNAとは何なのか

 mRNAを使ったワクチンが画期的であるのは、これがCOVID-19だけではなく、他のウイルスはもちろんのこと、がんや心臓病、脳神経疾患などにも、幅広い応用が可能になるからです。

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 なぜそんなことができるのか、それを説明するためには、まず「RNAとは何か?」から話さないといけません。

 みなさん、DNAについてはよくご存知でしょう。ここにすべての遺伝情報が入っています。RNAは言ってみれば、DNAをお手伝いする仲間です。

 DNAとはデオキシリボ核酸の略で、RNAはリボ核酸のことです。どちらもヌクレオチド(糖+塩基+リン酸)という物質が連なって鎖状になっています。DNAは「デ・オキシ」と名前に付いていることからわかるように、酸素がRNAより一つ少ない構造で出来ています。またヌクレオチドの鎖がRNAは1本、DNAは2本。DNAが二重らせん構造をしていることはご存知ですね。長さはRNAよりDNAのほうがはるかに長く、ヒトの細胞一つあたりのDNAは2メートルにもなります。

タンパク質の設計図を運ぶ

 細胞の中にはいろんな種類のRNAが存在しているのですが、そのうちmRNAはDNAの遺伝情報を一部だけコピーして、リボソームという細胞内小器官に運びます。遺伝情報を配達する役目を担っているので「メッセンジャー」と呼ばれるのです。

 リボソームでは、その設計図をもとにアミノ酸をつないでタンパク質が合成されます。どのアミノ酸をどういう順番でつなげるのか、それでタンパク質の性質がまったく変わります。

 ここで重要なことは、mRNAが運んできた設計図をもとにタンパク質が作られているということです。

ウイルスのトゲを作る

 コロナウイルスの形はニュースで何度も資料画像をご覧になったから、みなさん覚えているでしょう。トゲがいっぱい生えたウニのような見た目をしています。このトゲが鍵のような働きをして、細胞膜に並んでいる鍵穴を開け、私たちに感染するのです。このトゲはタンパク質で出来ていて、「スパイクタンパク質」と呼ばれます。