パリでは無かったはずの頭頂部の頭髪が風になびいていた
ドラギニョンで再会したポールさんの頭には、パリでは無かったはずの頭頂部の黒髪が風にふさふさとなびいていた。薄暗い冬のパリのアパルトマンで奥さんに怒られていた時と比べて、ポールさんはずいぶんと若返って見えた。巨大な地中海松の生えた小高い丘の上にあるその家には、定年後に移ってきたのだそうだ。新しい奥さんはポールさんよりおそらく20歳は若い、ショートカットでハツラツとした大柄な人で、我々が到着した時ふたりはプールから水着姿のまま駐車場に現れた。
最初の頃は親戚中で叔父さんを責め、軽蔑すらしていたが、本人がそうした誹謗(ひぼう)などどこ吹く風であまりに幸せそうだから、今では別れた前妻もみんな遊びに来るらしい。「結局どんな経緯があろうと、誰でも幸せな人のところに集まりたがるのよね」と、はしゃぎながら愛犬と一緒にプールの縁から飛び込む叔父さんを目で追うカルメンさんも楽しそうだった。
人生いろいろあっても幸せをプロデュースできている
「今夜はバーベキューだ、花火もやろう!」とプールから上がったポールさんが顔中皺だらけにして笑っている。波瀾万丈を経て長く生きてきた人の満面の笑みには強烈な説得力がある。人生いろいろあっても、なお幸せをプロデュースできているポール叔父さんの濡れた肌が、真夏の地中海の太陽を浴びてキラキラと輝いていた。