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無報酬で交通・滞在費も自腹…北アルプス山小屋「夏山診療」をした女医が担う"プリズンドクター"の意外な年収

source : 提携メディア

genre : ライフ, 医療, 働き方

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刑務所医務室の医師の机に置かれているモノ

一方で、刑務所内の医療のための費用は、税金によって賄われており、予算には限りがある。一般の病院並みの設備や機器、医薬品などが揃っているわけではない。しかも、患者はすべて「罪を犯した人」である。暴力事件や殺人を犯した人もいる。「怖い」と感じてしまうのも自然なことだ。

こういった事情から、刑務所内の医療を担当する法務省の担当官らは、プリズン・ドクターの確保に苦労し続けている。「何を好きこのんで、そんな過酷な仕事を引き受けなければならないのか」と考える医師が多いのだ。

「でもね、刑務所内の医師って、一般の病院やクリニックの医師よりも、よっぽど安全なんですよ」

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おおたわさんはそう語る。

「診察の際、受刑者が座る椅子と私の席との間には『線』があり、受刑者はこの線を越えて医師に近づいてはいけないことになっています。刑務官も必ず立ち会っています」(おおたわさん、以下同)

刑務所の医務室では、医師の机の上もカルテと最小限の筆記用具しか置かれていない。そのほかの医療器具は使用するときだけ取り出し、使い終わったらすぐにしまう。鉛筆一本といえども、場合によっては武器になりかねないからだ。

「花粉症の受刑者はお気の毒です。施設によっては点鼻薬を本人に持たせないんです。そのボトルに何を隠すかわからないですからね」

父と同じなりわいを当たり前に受け継いだ

おおたわさんがこの仕事を引き受けたのは6年ほど前。当時、おおたわさんは、父から引き継いだクリニックを閉院した後だった。

おおたわさんは小学校に入学する前から、将来は医師になるのを当然のことのように思っていた。父がそれを求めたわけではない。当時は「医者の子は医者になるもの」と当たり前に考えていたという。

「三つ上のいとこと仲がよくて、よく遊んでいたんです。2人とも歌が好きで一緒に歌っていたのですが、その子はその後、宝塚の男役になりました。今になって思えば、私にも別の道があったんですよね(笑)」