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「それをやると怒られるからできません」無駄を誰も止めない、社員は子供扱い……“生産性を爆下げ”する日本企業の特徴

牛尾剛×澤円

2023/12/15

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 読書, 社会, 働き方

note

牛尾 マイクロソフトには人事の評価制度のなかに、人を助けるという項目も含まれていてカルチャーとして人助けが根付いている。だからみんな分からないことは気軽にエキスパートに質問できるし、聞かれたほうも自分の時間やリソースに余裕がない時はサクッと断れる。「気軽に聞けて、気軽に断れる」コミュニケーション文化が生産性を加速させていると思う。

日本企業は社員を子供扱いしている

 僕はこれまでいろんな日本企業の業務改善にコミットしてきたんだけど、この会社をこういうふうに変えていこうと提案しても、現場の人たちがまるで遠い「スター・ウォーズ」の物語を聞いているような感覚になってしまって、「自社で起こせる変化」という距離感で捉えられていない問題がよく生じてきました。よく聞くフレーズが「それをやると怒られるからできません」なんですよ。

 

牛尾 怒るとかって、こっちならパワハラで一発アウトなのに。

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 実際、怒鳴るとかまでいかなくても、ネガティブな反応を総称してそう言っている。「部長が怒るからできません」「隣りの部署から怒られるんで避けてください」とかね。「その感情に即したビジネス上の決定はどういう顧客価値を生むのか、僕にロジカルに説明してもらえますか?」と聞くと、まともな答えが返ってきたことは一度もないんです。

 そもそも日本企業は社員を子供扱いしているし、みんな無駄だとわかっていることでも、上の顔色をうかがって、誰も止めようとしない残念なマインドがこびりついている。

世界中で実証されている効率のいいスタイルを真似する

牛尾 それでは生産性が爆下がりして当然なんですよね。澤さんが『メタ思考』に書いていたように、自分の組織、コミュニティ以外の「外のものさし」を持って、自分たちがとらわれているものを客観的に見る視点が絶対に必要だと思うんです。既存のビジネスの慣習に固執せず、まさに「自分がゲームチェンジャーになる」というマインドセットが。

 ソフトウェア開発に関していえば、どうしたら効率よく開発できるのか世界中でさんざん研究され、実証されているスタイルがもうあるわけだから、日本でも素直に真似したらいいと思うんですね。個々に優秀なエンジニアはたくさんいるのだから。

 日本企業は従来のシステム開発に固執した結果、グローバル競争においてスピードが全く追いついていない現実がある。日本的な組織文化は、ことソフトウェア開発において非常に相性が悪い。

 仕事の正解やルールが変わった時代において、ではどうやったらビジネスを抜本的に飛躍させることができるのか、僕はマネージャー職が長かったので、主に仕組み側から見て今回の本を書きました。一方牛尾さんはエンジニアとしての現場の立場から、生き生きとしたディテールとともに、一流の人たちのマインドセットの秘訣を書いていて、両書は深く共鳴していると改めて思いました。みなさんにはぜひ2冊とも読んでほしいですね。

牛尾 本当にそう思います。今日は刺激的なお話をありがとうございました。

(代官山蔦屋書店イベントにて)

『世界一流エンジニアの思考法』(牛尾剛 著)文藝春秋
『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(澤円 著)大和書房

牛尾剛(うしお・つよし)
1971年、大阪府生まれ。米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア。シアトル在住。関西大学卒業後、大手SIerでITエンジニアをはじめ、2009年に独立。アジャイル、DevOpsのコンサルタントとして数多くのコンサルティングや講演を手掛けてきた。2015年、米国マイクロソフトに入社。エバンジェリストとしての活躍を経て、2019年より米国本社でAzure Functionsの開発に従事する。著作に『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』などがある。ソフトウェア開発の最前線での学びを伝えるnoteが人気を博す。

 

澤円(さわ・まどか)
1969年生まれ。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトへ。ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006年にマネジメントに職掌転換。幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。2020年8月末に退社後、2019年10月10日より、(株)圓窓 代表取締役就任。2021年2月より、日立製作所Lumada Innovation Evangelist就任。他にも、数多くの企業の顧問やアドバイザを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。美容業界やファッション業界の第一人者たちとのコラボも、業界を超えて積極的に行っている。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部専任教員。著書に『マイクロソフト伝説マネジャーの世界№1プレゼン術』など。

世界一流エンジニアの思考法

世界一流エンジニアの思考法

牛尾 剛

文藝春秋

2023年10月23日 発売

「それをやると怒られるからできません」無駄を誰も止めない、社員は子供扱い……“生産性を爆下げ”する日本企業の特徴

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