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“顧客目線”時代にマーケッターが一番やってはいけないこととは?

「競争戦略×クリエイティブ」が最強の武器になる その2

source : ライフスタイル出版

genre : ビジネス, 働き方, 企業, テクノロジー, 経済, 読書

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 顧客目線が大事、共感の時代と言われる近年のマーケティングで、外してはいけないポイントとは何か? 『逆・タイムマシン経営論』の楠木建氏と、『超クリエイティブ』の三浦崇宏氏が忌憚なく語り合った、これからのビジネスに必要な力。(全2回の2回め/1回めを読む)

 

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「美味しい生活」というコピーに含まれた対概念

楠木 三浦さんの『超クリエイティブ』を読んで強く感じたのは、「対概念のない概念は意味がない」ということです。例に出ていた「おいしい生活」という有名な糸井重里さんのコピーがなぜ優れていたのか? 多くの人は時代の雰囲気を捉えてるとか、「おいしい」と「生活」という言葉のコンビネーションが面白いとか言いますが、「よりよい生活」ではないというところが肝なんですね。「よりよい生活」の対概念として「美味しい生活」を提示したところに意味がある。

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『ゼクシィ』の「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」という名コピーも対概念の提示ですね。それまで結婚は一定の年齢になると必ずする「ライフステージ」だという固定観念に対して、結婚とは自己選択で決めるライフスタイルだという主張になっている。

 こういうものの理解の仕方は、三浦さんのクリエイティブな思考法のなかでもとりわけ重要だと思います。なかでも一番面白かった対概念は、「これからは市場拡大ではなくて市場濃縮」という、三浦さんのコンセプトです。

「市場拡大」ではなく「市場濃縮」

三浦 たとえばある水を今年100人に売ったとしたら、来年は130人に売ろうというのが市場の拡大です。一方、市場の濃縮は、100人が水を買ったら、その100人の人たちがもう一回買う、次に買うときにもっと美味しいと感じてくれるようにより満足度を高めることです。

 

 これからは市場の濃縮こそが企業のブランディングに直結すると思っていて、たとえば僕たちの最近の仕事でいうと、アイウェアブランドJINSの「JINS SCREEN」というブルーライトカットのメガネのプロモーションです。幸い、コロナ禍のタイミングでも売れ行きは好調で。

楠木 それ、私も使ってますよ(笑)。

三浦 ありがとうございます。JINSさんが始めたこのコンセプトのレンズは他社も追随していて、価格的には他社のほうが安かったりする。でもそこで価格やスペック競争をするのではなく、「私たちがいま本当に必要なメガネってなんだろう?」という根源的な問いから始まる、JINSの思想を伝えるCMを作りました。

 顧客は安さではなく、買い換えや同じメガネを買うのなら、目のことを根本から考えてくれてる企業のメガネを買おうと、思想に共感して購買行動をとる―――これを促すのが表現やブランディングによる濃縮です。そしてもう一つ、表現による濃縮の先に、サブスクリプションなどの仕組みによる濃縮があります。