1ページ目から読む
5/6ページ目

まず「落ち着け」

三浦 まさに過去・現在・未来を俯瞰する視点が本当に大切で、この『逆・タイムマシン経営論』の核心をすごく簡単な言葉でいうと、「落ち着け」って書いてあると思ったんです。

 人口減少はピンチのような気がする――「落ち着け、200年前は人が多くて困ってたんだぞ」と。仕事がなくなる――「落ち着け、20年前からなくなるって言われてるけどなくなってないだろ」と。みんなが目先のピンチや飛び道具にとりつかれて本質的なものを見失いがちな時こそ、1度落ち着けとこの本には書いてあると思いました。

楠木 実はこの本の帯の文句ですが、「まずは1回深呼吸」というのが僕の考えた最初の候補だったんですよ。わかりにくいから「古くて新しい方法論」にしたんですけど、おっしゃるとおりです。

ADVERTISEMENT

楠木建氏

人口減少問題のねじれ

 人口減少問題が一番象徴的なので少しお話しすると、日本は明治以来100年間、最大の課題は人口増大でした。人口さえ減ればすべての問題は解決すると、あらゆるソリューションが考えられていた。人口が増えると物理的に日本という国は食えなくなる、だから、満州開拓にしろ、移民して人が食えるよう土地を確保しようという発想が実行に移された。

 戦後は戦後で、産児制限です。新聞・雑誌を見ると、女性がもっと活躍しなきゃいけないと当時から言われていましたが、女性の社会進出の一丁目一番地は「いかに子供を産まないか」でした。子供がいっぱい生まれると女性が家庭に縛りつけられて社会進出できないから制限しようというのが、フェミニストの重要な運動テーマのひとつでした。

 高度成長期で経済的に豊かになっても、「人口が多いせいで住宅難、交通戦争、受験地獄、公害が起こっている、だからどうやって人口を抑制するか」と議論されていた。それなのに、実際に人口が減り始めたら今度は「人口減が諸悪の根源」と言われる。ちょっと時間的な奥行きを持って過去に遡るだけで、こういうねじれが見えてくるわけです。

 

三浦 人口減少はすごく難しい社会問題に見えますが、冷静に考えると笑っちゃうような国ぐるみのコメディですよね。