起業と同時に新しい市場やビジネスモデルを生み出そうとするスタートアップ業界で、女性起業家の多くがセクハラ被害を受けているという。
自身もセクハラを受けた経験があり、被害者のための団体「スタートアップユニオン」を立ち上げた松阪美穂氏に、セクハラの手口、被害を訴えることができなかった理由、講じていた対策などについて、話を聞いた。(全3回の1回目/2回目に続く)
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「帰り際にむりやりキスをされた」最初のセクハラ被害
ーー起業に向けて投資を募ろうと、起業家やベンチャーキャピタルを訪ねるなかでセクハラを受けたそうですが、最初の被害というのは。
松阪美穂(以下、松阪) 2019年です。「事業計画を見てあげるよ」と言われて、会いに行ったら、帰り際にキスされたんです。向こうのほうが力が強いので、ガッと寄せられて、むりやりに。それがショックで。そのときの私は、セクハラ対策を取りたくても、どうしたら良いのかわからなくて。手探り状態のときに被害に遭いました。
その日は「渋谷マークシティの前で」と場所の指定をされたんですけど、それって待ち合わせ場所だけで、そこからどこに行くかわからないんですよね。そうなると、そのままご飯に連れていかれてしまったりするので、「どこそこの場所で、ちゃんと仕事の話をする」というのがあやふやになってしまうんです。その事前確認をしとくべきだったなと、被害を受けてから思って用心するようになりましたけど。
ーー「用心が足りなかった」から被害を受けていいわけではないですよね。
松阪 相手の地位が高かったこともあり、私もつい“聞き分けが良い人”を演じてしまったんです。「打ち合わせの場所はどこになるのか」まで踏み込んで確認する勇気もありませんでした。
「カップルカウンセリング」事業での起業をめざしていた
ーーどういった分野での起業を考えていたのでしょう。
松阪 カップルカウンセリングというもので、アメリカではカップルカウンセラーという専門家が離婚や結婚生活の悩みを聞くんですね。でも日本だと、そういったことを友達に聞いただけで終わるんですよ。友達って、だいたい同調してくれるので、悩みを解決するまでにはいたらないこともあって。
本来ならば専門的な知識が必要なんだけど、重要な問題の解決方法が友達次第で変わってしまう。「そこは専門的な知識が必要」と課題に感じました。
ーー日本ではカップルカウンセリングの認知や普及が著しく低いと。
松阪 そうですね。最近は日本でも増えてきましたが、私が起業を目指した当時は、ほとんど認知されてなかった。だから、夫婦やカップルで問題が起きたら専門家に相談をするという文化を作りたかったんです。
日本人はカウンセリングに対して病理的なイメージを持っていて、抵抗を感じる人も多いのですが、北欧ではカップルカウンセリングが福利厚生になっていたりするんですよ。結局仕事のパフォーマンスって、家庭内の安定がモチベーションにつながったりするので、福利厚生のプログラムにカップルカウンセリングを導入できればとも考えていました。