「負けにどう対処するか」というのは、すべての人と組織に与えられた課題である。不敗の人間やチームはどこにもない。負けたそのときにどう起き上がるか、負けに学び、どんな勝負手を温めておくかで、その後の人生は変わってくる。

 私が読売巨人軍の球団代表を務めていた2009年7月のことである。イースタン・リーグで巨人の2軍はヤクルト2軍に1対25で大敗した。知らせを受けた私は顔が熱くなった。何かの間違いではないか、と思って事情を聞いた。マネージャーによると、2軍監督の岡崎郁は試合後、屈辱で意気消沈する選手をベンチに座らせ、こう短く叱責したという。

「今日の負けにどう対処するか。方法は2つある。もう野球をやめてしまうか、練習して力をつけるか。それしかない」

ADVERTISEMENT

 2軍とはいえプロの選手である。中学、高校、大学とさんざん叱られてここまで勝ち抜いてきた若者たちだ。拳骨を振るっても効果はない。プロとしてメシを食う彼らの敗戦にはグダグダ怒らないことだ。彼らには明日も試合があるように見えて、実は後がなく、逃げ場もない。その厳しい現実を、強く分かりやすい「言葉の一撃」で教える。あとは各人の奮起をじっと待つしかないのだ。

 しかし、素人のサラリーマンが右も左もわからない組織に異動を命じられたときにはどうすればいいのか。

『サラリーマン球団社長』清武 英利(文春文庫)

 負け癖のついたチームに投げ込まれた――。それが拙著『サラリーマン球団社長』(文春文庫)の主人公である野崎勝義の出向人生だった。

 彼は今日の負けにどう対処していったのか。この本の中から拾い出してみよう。(文中敬称略)(前後編の前編/後編はこちら)