先の都知事選で15万票を獲得。マニフェストが大絶賛されたAIエンジニア・SF作家の安野貴博さんが、初のビジネス書『1%の革命』を上梓した。オードリー・タン氏も絶賛する日本のデジタル民主主義の旗手が打ち出す、超高齢社会における日本の活路とは?
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人口ピラミッドの構造がいびつな時代に
――都知事選のあとからメディアの大きな注目を集めていますが、なぜ今回、未来戦略本なのでしょうか?
安野 昨年、東京都知事選に出たさい、多くの方々から貴重な知見をいただきながらマニフェストを練り上げたのですが、これを一選挙の公約で終わらせるにはあまりにももったいないと思っていました。そこで、改めて「チーム安野」で追加リサーチを重ねつつ、思想的な部分も社会改革のビジョンとしてしっかりと掘り下げ、より多くの人に長くご参照いただけるような書籍をつくることには意味があると考えました。
東京にとどまらず、日本全体のリブート(再起動)戦略として普遍化できる刺激的な方法論を多く盛り込めたと思っています。
――本書の出発点における課題意識として、私たちが生きる超高齢社会 における「シルバー民主主義の問題」を挙げていますね。
安野 まず、今や国民の3割が65歳以上の超高齢社会というのは、日本が世界に先駆けて直面している非常にシビアな現象で、これは我々で解かなくてはならない問題です。少子高齢化社会では人口ピラミッドの構造が極めていびつで、最新の統計(総務省統計局「人口推計」2025年1月報)によると、現在の総人口1億2359万人に対して20~30代はわずか2594万人しかいません。一方、60歳以上は4383万人います。
その人口構造は、多数決をベースとした民主的な意思決定にも大きな影響を与えます。19世紀の政治思想家アレクシ・ド・トクヴィルが民主主義の根本的な欠点として挙げた「多数派の専制」が起こりやすくなってしまうわけです。個々人が自分にとって都合がよい選択が集積されたとき、どうしても短期目線の意思決定になりがちという根本的な問題もここにはあります。
――確かに政治の場面において「今だけ金だけ自分だけ」の短期的な意思決定が多すぎるように思います。
安野 個人にとって最適な選択と、長い時間軸でみた社会全体にとって最適な選択が食い違ってしまうのは、構造上仕方がないことです。「短絡的じゃないか」と個々の道徳性を批判したって意味がありません。私だって今、高齢者だったら全く別のものの見方になっている可能性が高いですし、どんな世代にだって利己的な人もいれば利他的な人もいる。私は、個人の善意をベースにするのではなく、民主主義というシステムそのものをアップデートすることによって、どういう人口ピラミッドの社会であってもうまく機能するように改革するほうが生産的だと思っています。