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「先生は勝ち負け以外の“伝説”もたくさん残されていますよね」ピアニスト藤田真央(25)が加藤一二三(83)に聞く“70年戦い続けられた理由”

2023/12/30
note

最多対局の記録も最多敗戦の記録も持っている

藤田 勝ち負けに関係なく美しい棋譜というのがあるんでしょうね。

加藤 私は自分が勝った将棋の9割は名局だと思っています。互いにミスがなく、常に最善手を指しあった上で勝負が決まる。そういう勝負は名局と呼んでいいと思います。一般的に棋士は負けず嫌いだと思われていますが、私は負けず嫌いじゃないんですね。私は最多対局(2505局)の記録を持っているんですが、最多敗戦(1180敗)の記録も持っているんです。負けず嫌いだったら、こんなに負ける前にやめていたかもしれませんね。

ラ・ロック=ダンテロン音楽祭にて (『指先から旅をする』より 撮影:小野祐次)

藤田 私も負けず嫌いではないんです。意地みたいなものもありません。本来音楽は芸術なので競い合うものではないですしね。ところで先生は、勝ち負け以外の“伝説”もたくさん残されていますよね。しかも食べ物にまつわる話が多い。私が好きなのは米長邦雄永世棋聖との「みかん合戦」のエピソード。1981年、お2人が十段戦で対局されたとき、2時間以上何十個もみかんを食べ続けて、部屋中がみかんの香りになって、記録員が困ったと(笑)。

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加藤 ありましたね。中原先生との対局のときにケーキを3つ注文したこともあるんです。中原先生は「自分と記録員のぶんも注文してくれた、加藤はやさしい」と思ったらしいんですが、その3つを全部私が食べたので驚いたそうです。棋士の中では、「中原先生も気にせず自分でケーキを注文すればよかったのに」という声も多いんですが、中原先生は人が良いのですよね。

※藤田真央さんがリハーサルに見出している楽しみや、加藤一二三さんが指揮をしたときのエピソード、2人が考える「才能と努力」、そして「おにぎり」から見える意外な世界…など、全文は『週刊文春WOMAN 創刊5周年記念号』でお読みいただけます。

指先から旅をする

藤田 真央

文藝春秋

2023年12月6日 発売

ふじたまお/1998年11月28日、東京都生まれ。2017年、弱冠18歳で第27回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール優勝、2019年、チャイコフスキー国際コンクール2位受賞。

かとうひふみ/1940年1月1日、福岡県生まれ。14歳7カ月で史上最年少(当時)プロ棋士に。1982年、名人位獲得。2017年6月、62年10カ月にわたる現役生活から引退。2022年度文化功労者。

text:Kosuke Kawakami
photographs: Tomosuke Imai
撮影協力:ヤマハミュージックジャパン

「先生は勝ち負け以外の“伝説”もたくさん残されていますよね」ピアニスト藤田真央(25)が加藤一二三(83)に聞く“70年戦い続けられた理由”

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