「子どものころから憧れを抱いていたので、今回獲得できたことはすごく感慨深いです。名人という名前にふさわしい将棋ができるよう、今後一層頑張りたい」
6月1日、名人戦第5局で渡辺明九段を下し、新たに名人位を奪取した藤井聡太新名人は、謙虚に感慨を口にした。長い歴史を持つ名人位だが、20歳10カ月での獲得は史上最年少記録だ。快挙には、自身の名前に一つだけ音が足りない旅館「藤井荘」(長野県)で達成されるというおまけも付いた。これで前人未到の八冠独占まで、残るは王座一つ。名前もタイトルも完全まであと一つという、王手ずくめの対局となった。
見るものを魅了する藤井新名人の将棋だが、その片鱗はプロになる前から示されていた。
杉本八段の証言「一目見た瞬間に才能を感じました」
小誌連載「師匠はつらいよ」でもおなじみの師匠・杉本昌隆八段が藤井新名人と初めて出会ったのは、小学校1年生の3月のことだった。その出会いを、杉本八段は今でも鮮明に覚えているという。
「一目見た瞬間に才能を感じました。その時から、聡太少年の将棋は、意識的に見るようにしましたね。当時の藤井新名人は安全策をとるのではなく、どんどん激しく攻め込む将棋のスタイル。華がある、見ていて楽しい将棋を指していました。飛び道具と呼ばれる飛車角や、動きがトリッキーな桂馬をダイナミックに使い、盤面全体を支配していくところにスター性を感じました。だから『この子がプロになったら、きっとファンが増える』なんて想像していましたが、まさか本当に、しかも桁違いに将棋を観戦するファンを増やしてくれるとは思いませんでした」
教室が終わった瞬間に上級生たちとプロレスを始め……
当時の藤井少年が通っていた地元・瀬戸市の「ふみもと子供将棋教室」の文本力雄氏も、目を細めながら往時のエピソードを語る。