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「幼稚園の年中で教室に入った時は囲い方も戦法も詰将棋も知らなかったけれど、将棋の世界を知って水を得た魚のようにどんどん上達していって、これは将来奨励会に入って棋士になってタイトルを取って、名人まで行くなと思いましたね。一番の思い出は、大人が出場する全国支部将棋対抗戦の団体戦に、小学3年生の聡太を大将にして一緒に出たことです。そこで聡太は結局負けてしまいましたが、観客が周りを二重三重に囲むような死闘を演じたんです。人を惹きつける名勝負をするのは当時から。今の聡太はすっかり優等生になりましたが、当時は教室が終わった瞬間に上級生たちとプロレスを始めるし、走るのも速くて身体を動かすのが好き。私の中の聡太は、そんなやんちゃな子です」
小学4年の夏、奨励会に合格した藤井少年を送り出す際、文本氏はこんな言葉をかけた。
「『名人を目指すなら応援しない。名人の上を目指すなら応援する』。そう言ったんです。聡太は棋士を目指す他の少年と同じような気持ちではいけないと伝えたかった」
最年少名人を達成したが、文本氏は「全冠取ってからがスタートライン」と一層の成長を期待する。
それは今でも藤井新名人の伸びしろが未知数であるからだろう。杉本八段も、現在はまだ通過点だと捉えている。