藤井が持ち駒の桂をつまみ、歩頭に打ち下ろす。ああ、同じだ。デビュー戦と、そして名人をつかんだ将棋と。

 2016年12月、第30期竜王戦6組ランキング戦の加藤一二三九段戦では、歩頭の桂打ちで加藤矢倉を粉砕した。今年6月1日、渡辺明名人との第81期名人戦七番勝負第5局では、歩頭の桂打ちで必至をかけ、名人を獲得した。

 そして、今回も歩頭の桂で8つあるタイトルをすべてつかんだ。

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史上初となる「全八冠制覇」を達成した藤井聡太八冠

地元棋士がタイトル戦控室に大集結

 永瀬拓矢王座に藤井聡太竜王・名人が挑戦する第71期王座戦五番勝負第4局が、10月11日、京都市「ウェスティン都ホテル京都」で行われた。戦型は永瀬の先手で角換わりに。22手目までは、両者が戦った2022年6月の第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局と、そして同年7月の藤井と豊島将之九段のお~いお茶杯第63期王位戦七番勝負第3局と同じである。棋聖戦では藤井が、王位戦では豊島が、後手からの桂跳ねを防いでいる。というか、前例4局すべてがそうだ。

 ところが永瀬はいきなり右桂を跳ね出した。まだ開始から20分しか経っていないではないか。新幹線の車中でこの手を見て私は慌てた。京都へ急げ。

 10時半過ぎに現地の控室に着き、立会人の淡路仁茂九段、日本経済新聞解説の村田顕弘六段、そして理事として現地入りしている井上慶太九段に挨拶する。

 第2局の神戸と同じく、今回の現地大盤解説会も関西若手棋士ユニット「西遊棋」が主催。続々と若手棋士たちが控室にやってくる。仕切り役が糸谷哲郎八段、応援で室田伊緒女流二段、解説が大石直嗣七段、西田拓也五段、井田明宏四段、宮嶋健太四段、北村桂香女流二段。さらに西川和宏六段も見学に来た。西田、井田、北村は京都出身、地元棋士がたくさん集まるのもタイトル戦控室に来る楽しみの一つだ。

 糸谷に解説会の様子を聞くと、「180席に対し、申込みが1200ありました」とのこと。そりゃすごい。

大盤解説会場には多くのファンが詰め寄せた ©勝又清和

藤井が53分使い、昼食休憩に

 糸谷は2016年に第64期王座戦の挑戦者になったが、羽生善治王座に3連敗で敗退している。「第2局がここでして、羽生先生の四間飛車にボコられました」と苦笑い。

 宮嶋に第3局での取材の感謝を伝えると、「いえ、名前を載せていただいてありがとうございます」と礼儀正しく返してくれた。ええ子やねえ。永瀬の仕掛けについて見解を聞くと、「水面下では指されているでしょうが、この仕掛けは公式戦では新手ですね。リスクが高い仕掛けですが、収まると後手が苦しくなるので、攻めるしかないでしょう」。