ついに史上初となる「八冠制覇」の偉業を成し遂げた天才棋士・藤井聡太。その師匠である杉本昌隆八段が、瞬く間に頂点に立った弟子との交流と、将棋界のちょっとユーモラスな出来事を綴ったエッセイ集『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文藝春秋)を刊行。現在、4万部を超すベストセラーとなっている。
その中の一篇「様々なる『異名』」(2022年9月22日号)を転載する。
(段位・肩書・年齢などは、誌面掲載時のものです)
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ネーミングはファンの方がセンスが良く、感心することも
私はプロ野球ファンだが、地元の中日ドラゴンズが今季はなかなか浮上せず、応援にも身が入らない。だが、2017年より「FCスペシャルゲーム」が行われていることを知り、その内容に興味を引かれた。
その試合では、ユニフォームの背ネームを着ている選手自身が呼んでほしいニックネームに変えるのだ。例えば選手会長の京田陽太選手は「KAICHO」。期待の根尾昂投手はシンプルに名前の「AKIRA」。福敬登投手はチームの地元東山動植物園とのコラボでイケメンゴリラ「シャバーニ」の名を拝借したとか。
地元色も出て、選手の個性も分かる。一種のファン感謝デーなのだろうが、ニックネームとはなかなか面白いものである。
さて、トップ棋士にはそれぞれの棋風をイメージした異名がある。羽生善治九段の鮮やかな逆転術は「羽生マジック」。谷川浩司十七世名人のスピード感溢れる終盤は「光速の寄せ」という具合だ。
藤井聡太竜王には決まった異名がないが、「AI超えの一手」 「神の一着」などがそうだろうか。ネーミングはファンの方がセンスが良く、感心することも多い。
少し前のABEMAの王位戦中継では、藤井王位のさすがの終盤力に「さす聡」 「読み切って太」などの声が上がったという。私の感性では強引な気もするが、色々思いつくものですね。
弟子の異名は師匠が名づけるものでは決してないが、やむにやまれぬ場合もある。藤井竜王が中学2年で棋士になった頃、あるテレビ局の取材で聞かれた。
「藤井さんには〇〇流などの異名はないですか?」