「いや、棋士になったばかりだし、ないですね」
「師匠から考えてもらえませんか?」
「え?……黒い学生服で鋭い将棋だから“瀬戸の黒豹”とか?」
「……」
たしか却下されたはず。あれが私の考えた藤井竜王最初の異名だった。
私は一般的には「師匠」がニックネームだが…
また別の情報番組。藤井竜王の偉業達成時に毎回私が異名を付けるのだが、2回目、3回目と回数を重ねると手詰まりになってくる。
異次元超特急……ホワイトホール……毎回本気で考えるのだ。藤井竜王の今後に備え、スケールの大きな異名を模索中である。
ちなみに私は一般的には「師匠」がニックネームだが、もちろんこれは自分だけの呼び名ではない。実は将棋の内容で呼ばれる異名があり、それは「リフォーム」である。
自分の対局の際、中継でこんな描写を見かけることがある。
「この激しい終盤で囲いを補強するとは! いかにも杉本らしいリフォーム術だ」
持ち駒の金銀を惜しみなく投入して囲いを修復する。負けない気持ちは伝わっても、鋭さや鮮やかさとは無縁。だが生活感溢れるこれが異名というのもなかなか良いではないか。自分では気に入っている。
最大のネックは、これが炸裂しても、勝利には全然近づかないこと。
「杉本さんのリフォームが出た! うへぇ、今日は終電で帰れないな」
対局相手以外の関係者からは恐れられているようである。
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