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「いや、棋士になったばかりだし、ないですね」

「師匠から考えてもらえませんか?」

「え?……黒い学生服で鋭い将棋だから“瀬戸の黒豹”とか?」

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「……」

 たしか却下されたはず。あれが私の考えた藤井竜王最初の異名だった。

王座戦五番勝負を制して、史上初となる「全八冠制覇」を達成した藤井聡太 ©文藝春秋

私は一般的には「師匠」がニックネームだが…

 また別の情報番組。藤井竜王の偉業達成時に毎回私が異名を付けるのだが、2回目、3回目と回数を重ねると手詰まりになってくる。

 異次元超特急……ホワイトホール……毎回本気で考えるのだ。藤井竜王の今後に備え、スケールの大きな異名を模索中である。

 ちなみに私は一般的には「師匠」がニックネームだが、もちろんこれは自分だけの呼び名ではない。実は将棋の内容で呼ばれる異名があり、それは「リフォーム」である。

 自分の対局の際、中継でこんな描写を見かけることがある。

「この激しい終盤で囲いを補強するとは! いかにも杉本らしいリフォーム術だ」

 持ち駒の金銀を惜しみなく投入して囲いを修復する。負けない気持ちは伝わっても、鋭さや鮮やかさとは無縁。だが生活感溢れるこれが異名というのもなかなか良いではないか。自分では気に入っている。

 最大のネックは、これが炸裂しても、勝利には全然近づかないこと。

「杉本さんのリフォームが出た! うへぇ、今日は終電で帰れないな」

 対局相手以外の関係者からは恐れられているようである。

『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』 (杉本昌隆 著)

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 このエッセイは『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文藝春秋)に収録されています。週刊文春連載を待望の単行本化。藤井聡太とのエピソード満載、先崎学九段との対談「藤井聡太と羽生善治」も特別収録して好評発売中です。

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