次々とタイトルを奪取し、将棋界を席巻する天才・藤井聡太。その師匠である杉本昌隆八段が、瞬く間に頂点に立った弟子との交流と、将棋界のちょっとユーモラスな出来事を綴ったエッセイ集『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文藝春秋)。

 その中の一篇「将棋は体力」(2022年11月10日号)を転載する。

(段位・肩書などは、誌面掲載時のものです)

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2018年の藤井聡太竜王名人(当時16歳)と杉本昌隆八段 ©文藝春秋

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将棋関連で疲れている姿を見せない藤井竜王

「さすがにこの歳では……」

 これはあるネット記事の見出し。この先にイメージされる言葉は読み手の年代によって違うだろうが、私なら「無理はできない……」などが真っ先に浮かんだ。

 しかし、この言葉の主は藤井聡太竜王。その先は全く違う意味だった。

 対局過多を心配する武富礼衣女流初段の質問にこう答えていたのだ。

「さすがにこの歳では(疲労は)ないです」

 ふむ、若くても体力がない人はいるし、これも藤井竜王の武器なのだろう。そもそも彼が将棋関連で疲れているところなど見たことがないぞ。

故・板谷進九段の影響もあり、体力だけはそこそこ自信ある

 あれは私と藤井竜王が同じ日に大阪で対局していた2018年。対局後に控え室に寄ったのが午後11時過ぎ。それから一緒にラーメンを食べに行き、再び将棋会館に戻って別の対局を検討。明け方の4時前後に解散したことがあった。

 当時16歳の藤井竜王は疲れなど微塵も感じさせず、始発の新幹線で名古屋に帰ったはず。前から知っていたが、有り余る体力を頼もしく思ったものだ。

 一方の私はそのとき50歳。重い夜食で翌日はさすがに胃もたれしていたが、特段影響はなかった。「将棋は体力」をモットーにしていた師匠、故・板谷進九段の影響もあり、体力だけはそこそこ自信を持っているのだ。