永瀬拓矢王座に藤井聡太竜王・名人が挑戦する第71期王座戦五番勝負第2局が、9月12日、兵庫県神戸市「ホテルオークラ神戸」で行われた。

 この日、私は早朝5時に目を覚ました。というのも、この4日前に行われた第82期A級順位戦の永瀬-斎藤慎太郎八段戦が衝撃的だったからだ。持ち時間6時間の将棋で60手目の消費時間は、斎藤5時間に対し永瀬はなんと10分! この王座戦第2局も永瀬先手なので、同じような展開になったらどうしよう……と、8時前には新幹線に乗ったのだった。

ポジティブな手しか指さない藤井が「専守防衛」の右玉を選択

 モバイルの棋譜中継とABEMAの動画中継で対局を見守っていると、21手まで順位戦の永瀬-斎藤戦と同一局面に進んでいるではないか。

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 あのとき永瀬が角換わりで右桂速攻を見せたのに対し斎藤は早繰り銀にして仕掛けを誘い、居玉のまま超急戦となっていたが、まさか同じ展開に。しかし藤井は手堅く守りの手を選んだ。ほっとして眠りにつく。新大阪で乗り換えの際、再びモバイル中継の画面を開くと、なんと藤井が右玉にしている!

王座戦第2局に臨む永瀬拓矢王座(右)と挑戦者の藤井聡太竜王・名人 ©時事通信社

 藤井の右玉は、中盤の組み換えや雁木からの流れで見ることはあるが、角換わり後手番でダイレクトに右玉にしたのは初めてだ。とはいえ、いつかは採用するだろうなと私は思っていた。7月3日の佐々木大地七段との第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局では、佐々木の右玉に対して端に桂を跳ね、玉頭から攻めるという衝撃的な構想を見せた。私は副立会だったので、藤井に話を聞いたのだが「相手の玉が左辺に戻りにくい配置のときのみ端桂は成立していると思います」と答えた。

 佐々木はその後、7月下旬の伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦七番勝負第3局でも右玉を採用している。藤井は右玉を深く研究しているうえにタイトル戦で経験値も積み、優秀な作戦と認識していたはずだ。さらに永瀬が直前の対局で速攻を掛けていたので、対策の意味もあって右玉を選んだのだろう。とはいえ、ポジティブな手しか指さない藤井が「専守防衛」の右玉とは……と考えつつ控室に入ると、ちょうど藤井が先に駒をぶつけたところだった。

大盤解説会は定員250名のところ、申し込みが700件

 立会人の福崎文吾九段、日本経済新聞観戦記の村山慈明八段が控室にいた。福崎は「昨日は全員で会食だったんですが、両対局者はとても静かで、ほとんど話さなかったですね」と、2人が静かに闘志を燃やしていたことを笑顔で話してくれた。

 現地での大盤解説会は関西若手棋士ユニット「西遊棋」が主催となっていた。

大盤解説会に出演した冨田誠也四段(左)と糸谷哲郎八段(右) ©勝又清和

 定員250名のところ、申し込みが700件あったそうだ。出演棋士は斎藤八段、冨田誠也四段、森本才跳四段、佐々木海法女流1級、榊菜吟女流2級。また、糸谷哲郎八段、室田伊緒女流二段も運営として携わっており、現地入りしている。彼らの普及熱心さにはいつも感心する。こうして後輩たちにも受け継がれていくのだろう。