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揺れる家族

87歳、遠方ひとり暮らしの父が「俺は家で死ぬ」と宣言…娘である私が直面した、在宅看取りの「甘くない現実」

87歳、遠方ひとり暮らしの父が「俺は家で死ぬ」と宣言…娘である私が直面した、在宅看取りの「甘くない現実」

『家で死ぬということ ひとり暮らしの親を看取るまで』

2024/01/04
note

 一般的にはあまり知られていないが、介護保険の認定(更新含む)審査時には、認定調査員による訪問調査や主治医の意見書をもとにコンピュータでの一次判定、次に市区町村が任命した保健、医療、福祉の専門家からなる介護認定審査会での二次判定が行なわれる。

 このうち認定調査員による訪問調査では、全国共通の74項目の基本調査が実施される。「身体機能・起居動作」、「生活機能」、「認知機能」、「精神・行動障害」、「社会生活への適応」の5分野と、過去14日間に受けた特別な医療が該当項目だ。

 たとえば「移動」、「食事摂取」、「洗顔」、「上衣の着脱」、「排尿」などは、

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(1)介助されていない

(2)見守り等

(3)一部介助

(4)全介助

 の中から当てはまるものを回答する。

 手足が動かないなどの身体的な障害があればともかく、自分でご飯を食べられ、トイレで用を足せるとなれば「介助されていない」、つまり要介護度が低いと見なされる。

介護保険の甘くない現実

 父は末期腎不全ながらも自分で食事が摂れ、トイレで排泄でき、金銭管理などの認知能力にも問題がなかった。

 おまけに人工透析という積極的な治療、言い換えれば延命治療を拒み、できる限り自立した生活を送ろうとしたため、皮肉なことに「心身ともに自立」と判定されたわけだ。

 役所で申請すれば介護保険が使える、そんなふうに予想する人は多いが、現実はそう甘いものではない。

 介護保険の打ち切りから1年が過ぎた2021年、父は腎不全の悪化により意識喪失で昏倒、今度は腰椎を骨折した。再度の申請をしたが、認定結果はまたも「要支援2」。自分で歩くこともままならないのに、前回同様の脆弱な介護体制だ。

 介護保険には「要支援1、2」と「要介護1~5」の区分があるが、このうち「要支援」では入所できる施設も乏しい。

 たとえば介護体制が充実している特別養護老人ホームへの入所は原則要介護3以上、医師や看護師などの医療スタッフが常駐する介護老人保健施設(老健)は、要介護1以上と規定されている。

有料老人ホームを見学したが…

※写真はイメージです ©iStock.com

 民間の有料老人ホームでは「自立」や「要支援」の高齢者を受け入れる場合があるが、こちらは医療的ケアの必要性によって入所条件に該当しないことも考えられる。

 人工透析、末期ガンの疼痛コントロール、尿道カテーテル交換などは医療行為で、医師や看護師などの有資格者が行う。高度な医療的ケアが必要な利用者は、たとえ民間の施設であっても、「入所条件に該当しない」可能性もあるのだ。

 実際、私も父の施設入所を検討し、有料老人ホームに見学に出向いたが、「今後、人工透析を受けるかもしれない」と伝えると、「医療的ケアが必要な人は無理です」と断られた。

 介護保険と同様、施設入所にもさまざまなハードルがあることは知っておいたほうがいい。