相続の現場で頼りになるのが「税理士」だが、その大半は法人税や所得税が専門で、実は制度に詳しくないという。一方、税務署の調査官として様々な事案にふれてきた「国税OB」は、その道のスペシャリストだ。

国税OBだけが知っている失敗しない相続』(坂田拓也 著)では、国税OBの税理士たちがこれまで目撃してきた実例をふまえて、相続の「抜け穴」と「落とし穴」を指南する。

 ここでは本書を一部抜粋して紹介。多くの相続トラブルを経験してきた国税OBたちが見た、数少ない「理想の相続」とは――。(全2回の2回目/最初から読む

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 相続に詳しい税理士たちは、相続争いやトラブルを数多く経験してきた一方で、「理想の相続」も見てきた。

 民法では財産の分配割合が定められているが、故人の遺志が尊重され、相続人同士が譲り合えば、法定通りの分配には至らないことが多いという。遺言書が遺されていても、相続人全員が合意すれば遺産分割協議に移行することもできる。

相続人が揉めるケースは「2割ほど」

 理想の相続に向けて早めに動く人たちもいるが、親の気持ちに子供が応えられなかったり、夫の気持ちが妻に通じなかったり、意外に難しい。

 阿保秋声税理士は、相続税の申告書作成をこの数年間で50件以上行った。同業の税理士から回って来た難しい案件も多いという。

※写真はイメージです ©iStock.com

 阿保税理士が振り返る。

「相続人の1人か2人が欲を出して揉めたのが2割ほど。相続人同士が同じ書面に印を押したくないと言い出し、別々の申告になったものもあります。一方で、相続人たちがお互いのことを考えて譲り合い、気持ちのいい相続もありました」

 先に、別々の申告に至ったケースを挙げる。

好き放題してきた妹が「均等分配」に反対

 両親は実家で暮らし、子供2人(兄と妹)はそれぞれ結婚して離れて暮らしていた。

 父親が亡くなった時、法定通り母親が半分、兄と妹が残り半分を均等に相続する話が進んだ。しかし、しばらくして妹が均等分配に反対してきた。

 兄は、両親が建てた家に20年住み、両親に家賃を払っていなかった。妹は、家賃免除による両親から兄への援助は金額に換算して3000万円になり、「その分を考えれば法定相続は嫌だ」と言い出したのだ。