母親が家を相続することを、60代長男が反対
民法(相続編)では、配偶者・子供・親・兄弟の有無に応じ、法定相続人の相続割合が細かく定められている。しかし相続財産には分割の難しい不動産があったり、特例の利用で各相続人の税額が異なったりするため、法定通りの分配は現実には難しい。
阿保税理士にもこんな経験がある。
80代の父親が亡くなり、母親と子供3人が相続人になった。
母親は特例を利用して1億円の土地を2000万円に減額して家を相続し、子供3人は父親の預貯金2000万円を均等に分ける方向で話が進んだ。これに60代の長男が反対して法定相続を主張し、合意に至ることができなかった。
父親の預貯金2000万円を子供たちが均等に分けるだけでは、長男は約660万円しかもらえない。長男の主張通り、父親の財産1億2000万円を法定通り分配すれば、母親は半分の6000万円、子供3人は残り半分を均等に分けるため、長男は2000万円を相続できる。
母親が土地を相続した上で法定通り分配する時は、母親は4000万円の現金を用意して子供たちに渡す必要が出てくる。母親にそんな現金はなかった。長男は、母親に対して「家を出て行ってくれ」と言ったも同然だった。
阿保税理士が振り返る。
「長男は母親を施設に入れ、実家を売却して財産を分けたいようでした。初めて家族と面談した時、長男は分別のある、できた人物に見えましたが、人は見た目では分からないものです」
「法定相続」は理想にあらず
家族の形や事情はそれぞれ異なり、お互いが譲り合えば相続人が相続する財産には差が出てくる。法定相続は、そうした譲り合いができない時に機械的に財産を分配する規定とも言える。
「昔は、長男が両親の面倒を看る、または家を継ぐので多く相続するなど状況に応じて暗黙の了解ができていました。最近は、長男が両親の面倒を看ても弟妹は『勝手にやったんでしょ』と言い出し、法定相続分を当然の権利だと主張することが増えています。
欲を出す相続人が最後に振りかざす“剣”が法定相続という権利であり、揉めるから法定相続になるのです」(同)
阿保税理士は、揉めた時には相続人にこう問いかける。
──あなたが相続人ではなく、故人(被相続人)だとしたら、誰に何を相続して欲しいですか?