大人げないまま新型高齢者となったみうらじゅんさんによる、息苦しい社会に風穴を開けるエッセイ集『アウト老のすすめ』。「週刊文春」人気連載の原稿を加筆・修正して95本収録したこちらの新刊から一部を抜粋し、紹介する。

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 夏が過ぎても蝉が鳴き止まない。

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 それによって秋の虫の音は掻き消され、とうとう冬を迎えてしまった。

 今も“ミーーン”と、一定数の蝉を耳の中で飼ってる状態なのである。

『アウト老のすすめ』

 人に言わすとそれは耳鳴りってやつで、一度医者に相談したほうがいいとアドバイスを貰った。

 聴力検査を受けた後、「どんな音が鳴っていますか?」と、聞かれたもので「蝉ですね」と答えると、さらに「どんな蝉ですかね」ときた。

 そこまで考えたことはなかったので「アブラゼミじゃなく、もう少し静かなやつですね」と、適当に返した。

 すると医者は半笑いで「それは老化による耳鳴りで、病気じゃありません」と、言った。

 何だ、老いるショックかよと、少し安心したけど、耳蝉の種類は分からず仕舞。

 とても気になったので後日『日本産セミ科図鑑』というハードカバーの高価な本を購入した。それには65ものトラックの鳴き声が収録されたCDが付いていたからである。

  録音場所によって違いがあるというが本当だろうか? 素人には一度聞いたくらいではその差がさっぱり分からなかったが、耳蝉に近い音色は大体、ニイニイゼミのものと判定。

 まぁいい、これで年中、夏休み気分でいられると一応、納得したが最大の問題は人の声の聞き辛さである。

 かつてはよく、つき合ってる彼女から「ねぇ、私の話、聞いてる!?」と、不機嫌な顔で言われたものだ。確かに聞いていなかったこともあるし、特に都合の悪い話が出た時はわざと耳を遮断していた。

 しかし、今回のそれは耳蝉による難聴。後ろメタファーがない分、イライラすることもある。

 老人が怒りっぽくなる原因のひとつなのかもなと思った。

 でも、それだけはどうにか避けたい。何かいい対策はないものか?