大人げないまま新型高齢者となったみうらじゅんさんによる、息苦しい社会に風穴を開けるエッセイ集『アウト老のすすめ』。「週刊文春」人気連載の原稿を加筆・修正して95本収録したこちらの新刊から一部を抜粋し、紹介する。
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“1個入れると2個出る”
これ、老いるショックの習性なり。だから、若者ぶって新しい情報を覚えると大変な損害が出る。たとえば「あーね」「それな」「知らんけど」、この3つ。正しい使い方を覚えた段階で6つも老いるショッカーの頭から今まで大切にしてた記憶がトコロテン式に抜け落ちることになる。それは何故か?
答えは至極、簡単である。もはや記憶の容量がパンパンだからだ。
パソコンのデータであれば、移植・保存が出来るのであろうが、そこは人間だもの。一生分の容量は決まってるはず。まだ、脳のことはよく分かっていないと学者は言うけど、僕は結局、80枚しか走馬灯には出てこないと踏んでいるのだ。
数の単位が枚なのは、僕が長年、スライダーをやってきたからに他ならない。スライダーとは、スライドを用い講演する者の名称。パソコン用語にもスライドショーというものがあると聞くが、その初めはスライド映写機を会場に持ち込み、それをスクリーンに投写して行っていたもの。
その映写機のスライドフィルムを入れ込むスリットが80。要するに1台につき80枚しか入れることが出来ないのである。
だからと言って、若者の容量がそんな少ないわけはない。いや、僕が言いたいのはそんな旧式スライド映写機同様、老いるショッカーがいずれ見るだろう走馬灯も80枚に限られてる可能性があるということだ。

