「兄夫婦は、近隣に住んでいる妻の両親の面倒を看ていて、妻の両親に感謝されて関係も良好でした。しかも兄の妻は、時間を作っては兄の実家にも行って義父母の面倒も看ていました。一方で妹は結婚してから実家に寄りつかず、好き放題していたようです」(阿保税理士)
兄夫婦には子供が2人いるが、妹夫婦にはいなかった。父親は孫に生前贈与していたが、学費程度の数十万円。数百万円かかった父親の葬儀代は兄が負担した。
「兄は家賃を払ってこなかった、という妹の言い分も分からないではありませんが、兄夫婦が両親の面倒を看ていたことなどを加味すれば、兄のほうが多くもらってもいいぐらいでしょう。しかし妹は折れませんでした。兄もとうとう怒り出し、『裁判になっても構わないので、妹と均等の相続で申告して下さい』と言い出したのです」(阿保税理士)
母親が特例を利用して自宅を相続したため、阿保税理士は遺産分割協議書の一部を作成し、法定通りとして母親と兄の分だけ申告した。その後、妹は別の税理士に依頼して申告した模様だという。少なくとも申告後1年は、妹が裁判に訴えて来ることはなかった。
「理想の相続」をした三兄妹
一方で、阿保税理士が今も印象に残っている相続がある。
千葉県に住む夫婦と子供3人(長男、次男、長女)の5人家族。板金工場を経営していた父親は、子供達が10代の頃に借金して高額の機械を導入し、身を粉にして働いた。長男と次男は父親の跡を継ぐために大学卒業後に板金工場に入った。
母親が早くに亡くなった後、兄弟が40代後半、妹が30代半ばになった時に70歳を前にした父親が亡くなった。
長男と次男が板金工場に入ると会社は成長し、その分だけ会社の株の評価額が上がり、相続税が高くなった。
父親は会社の株の半分を子供たちに生前贈与していたが、父親の持ち分はまだ相当額あった。自宅と預貯金を加えて相続財産は3億円を超え、相続税が5000万円かかることが分かった。しかも子供達が相続する大半は会社の株のため、納税資金を捻出しなければならなくなった。
妹夫婦の「主張」は…?
長男、次男、妹夫妻は阿保税理士の事務所に集まり、阿保税理士が立ち会って話し合いをはじめた。
最初に口を開いたのは妹の夫だった。