疎遠だった兄の死を突然知らされ、その後始末に追われた5日間を描いたエッセイ『兄の終い』(村井理子著/CCCメディアハウス)。

 その一部を抜粋・編集し掲載する(前後編の前編/後編を読む)。

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疎遠だった兄の突然死

「夜分遅く大変申しわけありませんが、村井さんの携帯電話でしょうか?」と、まったく覚えのない、若い男性の声が聞こえてきた。

 戸惑いながらそうだと答えると、声の主は軽く咳払いをして呼吸を整え、ゆっくりと、そして静かに、「わたくし、宮城県警塩釜警察署刑事第一課の山下と申します。実は、お兄様のご遺体が本日午後、多賀城市内にて発見されました。今から少しお話をさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」と言った。

 仕事を終え、そろそろ寝ようと考えていたところだった。

 滅多に鳴らないiPhoneが鳴り、着信を知らせていた。滅多に鳴らないうえに、そのときすでに23時を回っていて、着信番号は022からはじまるものだった。

©AFLO

 022? まったく覚えがない。こんな時間に連絡があるなんてよっぽどの用事だろう。わかってはいたものの、部屋を見回し、家族全員がいることを確認して、少し安心した。自分にとって、最悪なことは起きていない。

 iPhoneが鳴ったことに気づいた夫がテレビのスイッチを切った。ただならぬ様子を察知した息子たちが、iPadから顔を上げてこちらをじっと見た。ペットの犬も息子たちにつられて首を持ち上げ、鼻を動かした。

「今日、ですか?」

「本日、17時にご自宅で遺体となって発見されました。死亡推定時刻は16時頃、第一発見者は同居していた小学生の息子さんです」

 塩釜署の山下さんによると、兄はその日、多賀城市内のアパートの一室で死亡し、私の甥にあたる小学生の息子によって発見された。15時頃、甥が学校から帰宅したときには異常がなかったが、ランドセルを置いて友達の家に遊びに出かけ、再び帰宅した17時、寝室の畳の上で倒れていた。即死に近い状態だったという。

 死亡時の年齢、54歳。