「この土地は誰も買いませんよ」

 不動産屋にそう言われたのは、これで4軒目だ。買い手がつかない理由は自分でも分かっている。千葉県の九十九里浜近くの60坪の雑木林。周辺には店どころか住宅すらない。上下水道は通っておらず、最寄の駅まで徒歩1時間以上、風光明媚な海岸線に行くのにも同じぐらいの時間がかかる。

 こんな住宅地でもリゾート地でもない二束三文の土地を、不動産屋が仲介してくれるはずがない――。

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 それでも、この土地を売りさばかなくてはいけない理由があった。

40年前、そこは1000万円のきれいな別荘地だった

 40年ほど前、両親が別荘地として約1000万円でこの土地を購入した。当時はきれいに整備された宅地造成地だったが、その後、立地の悪さがたたって荒れ放題に。今思えば、悪質な原野商法に騙されたと思われる。

我が家の不動産。現在ではどこから自分の土地なのか、登記所で公図を見ないと分からない

 そんな一銭の価値もない土地だったので、家族の中で「九十九里浜に別荘地がある」という認識は持っていたものの、誰一人近づこうとはしなかった。

 土地の存在自体が記憶から消えかけていたコロナ禍のある日、とある事情から我が家の“負動産”に注目が集まった。

発掘された「登記済権利証」

「この土地、早く処分しないとマズいですよ」

 生前からの相続準備をお願いしていた司法書士事務所のスタッフから忠告を受けた。相続する時に放棄すればいいと安易に考えていたが、そう簡単には解決しそうな案件ではなかった。