私の安堵した表情を見て、スタッフが首を傾げた。
「この見積りの30万円は、土地の買い取り料です。つまり、相手の会社にお金を払って、引き取ってもらう金額です」
1000万円の土地は0円どころか、マイナス30万円の負動産になっていたのだ。買い手がつかないどころか、買い取り料に30万円が発生することが分かり、頭を抱え込んだ。この土地を処分するためのあれこれで、すでに50万円以上の費用が発生しているのである。
「九十九里浜の土地が欲しいです」
解決策はないのか。ネットで検索していると、あるホームページにたどり着いた。
『みんなの0円物件』
タダで土地をあげたい人と、タダで土地を譲り受けたい人をマッチングするサービスである。登録料は無料。0円どころかマイナス30万円の土地なので、ダメ元で登録してみることにした。
2~3ヶ月間は何も問い合わせがないだろうと覚悟を決めていたが、掲載された1時間後に、早速、1本目のメールが入った。
「九十九里浜の土地が欲しいです」
負動産の引き取り相手が瞬時に現れた。しかし、土地も見ずに決断するのは、いくらなんでも気が早すぎないか。「現地を見なくてもいいんですか?」と質問すると、すぐに返事が来た。
「大丈夫です。即購入の意思は固いです」
その後、2時間で2件の問い合わせが入った。問い合わせが殺到しそうな気配だったので、すぐに「みんなの0円物件」に連絡を入れて、掲載を一時中断してもらうことにした。
いったい、誰がこんなことを…?
最初に問い合わせをくれた人と交渉し、紹介してくれた司法書士を通じて、無事、九十九里浜の土地を譲渡することができた。何ヶ月もの間、ずっと頭を悩まし続けていた負動産は、転がり始めるとあっけなく手離れできたのである。
ほっとすると同時に、このサービスを始めた人への興味も芽生えてきた。なぜ、このようなサービスを始めたのか? どういう収益構造なのか? どんな人が物件を掲載して、どんな人が土地を譲り受けているのか。
こうして私は、この会社に取材を申し込むことにした――。
写真=竹内謙礼