文春オンライン

映画『すべて、至るところにある』尚玄が明かす旧ユーゴでの「台本なし、車1台にすし詰めの日々」と「戦争の傷痕」

source : 週刊文春CINEMA オンライン オリジナル

genre : エンタメ, 映画

note

 僕が出演したフィリピンのブリランテ・メンドーサ監督の映画『義足のボクサー GENSAN PUNCH』(21)も、台本が渡されない現場でした。けれどメンドーサ監督の場合は、事前のキャラクター作りには時間をかけていました。キャラクターを掴んでいれば、台本がなくてもまだいいのですが、キャラクター像が出来る前にクランクインしてしまうのがリムのスタイルです。これは不安ですよ。何もないので、つい自分自身が出てしまうかもしれない。これは俳優にとってとても怖いことだと思います。もしかしたらリムの狙いはそのあたりにあるのかもしれませんが。

©cinemadrifters

「住民同士が撃ち合って」直に聞いた戦争の経験

――初めてのバルカン半島はどうでしたか?

尚玄 バックパッカー時代にアジアやヨーロッパをかなり回りましたが、バルカン半島は異文化のまじりあった独特の風景に心を動かされました。点在するスポメニックはとても魅力的ですし、バルカンの国々が経験してきた戦争の傷跡に接して、勉強するのはとても意義があることでした。この映画には旧ユーゴ分裂後の戦争体験者たちのインタビューが収録されていますが、それを直に聞けたのはとてもいい経験だったと思います。

ADVERTISEMENT

 ある日戦争が起こり、親しいもの同士が川の両側で撃ち合うようになったこと。しかし戦争が終わり、いままたカフェで一緒に過ごしている。戦争の傷は消えてはいなくても、未来の平和を見ていこう。もちろん、戦争の遺恨はなくなったわけではないと感じることもありましたが、僕は沖縄南部の豊見城出身で、そこは戦争の被害も大きい地域でした。住民が避難したガマはまだ残っていて、遠足で出かけたり、戦争について見聞きすることが多い環境で育ちました。

©cinemadrifters

 バルカンに行って、建物の壁にいまだ残る銃痕を触ってみると、いまでも世界で戦争は続いていて、自分が普段生きている場所で戦争が終わったからといって、それでいいということはないんだという思いが強く湧いてきました。自然に手を合わせました。

――この記事には尚玄さんが現地で撮られた写真を3点掲載させていただいていますが、説明していただけますか?

尚玄 1点目はボスニア・ヘルツェゴビナのカフェの常連客で、映画で戦争体験を話してくれた男性。

©Shogen

 次の写真は共演したイン・ジアンのボスニア・ヘルツェゴビナでのオフショットです。銃弾の痕が壁に残っていますね。

©Shogen

 最後は休暇で訪れたモンテネグロのトルコのレストランです。おいしそうでしょ。

©Shogen