『ドライブ・マイ・カー』は米アカデミー賞に作品賞・監督賞・脚色賞・国際長編映画賞の4部門でノミネートされた。作品賞・脚色賞は日本映画史上初の快挙。監督賞は『乱』の黒澤明監督以来、36年ぶりという。

 昨年8月からロングランを続けていたが、ノミネートが明らかとなってから上映館数は240館に達し、興行収入も6億円を突破した。コロナ禍に苦しむ邦画界にとって、まさに一筋の明るい話題となっている。

『ドライブ・マイ・カー』はどのように生まれ、どうしてここまで評価されたのか。

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 ここに至る軌跡を山本晃久プロデューサーが語る。

「もともと僕が村上春樹さんの小説が大好きで、映画を志した中学生の頃からいつか映画化したいと思っていたんです。濱口竜介監督にある時、『村上作品を映画にしませんか』と提案したところ、監督も村上作品を読んでいて、『思ってもいなかったけど興味があります』という返事でした」

 村上作品の映画化を提案した理由について、山本氏は、

「いつか映画にしたいとは思っていても、『羊をめぐる冒険』や『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』などの世界観は独特で、映像化するのは困難だと思っていました。一方で、村上作品には『ノルウェイの森』やその前身の『螢』のように、失われた人への思慕や、青春の喪失、孤独、恋愛とセックスについて書かれた作品群もある。

濱口竜介監督 ©AFLO

 濱口監督の『PASSION』(2008)を観た時に、恋愛や見えざるセックスを描きながら、人間関係を巧みな会話劇で変化させていく演出に瞠目しました。一見現実的ではない台詞回しも含めて通ずるものを感じて、濱口監督でしかなし得ない村上文学へのアプローチがあるのかもしれないと思ったんです」

 山本氏がその時提案したのは、『ドライブ・マイ・カー』とは別の小説だった。しばらく検討した濱口監督は、「どうしたら映画になるか見えない」と言った。そこで、先に別の作品をやろうと取りかかったのが『寝ても覚めても』。これが濱口監督の商業映画デビュー作となった。同作の製作が終わりかけた頃に、濱口監督は山本氏に言った。

「『ドライブ・マイ・カー』は山本さん、読みました?」

「もちろん。読んでますよ」

「映画にできるとしたら、これかなと思ってるんです」