2019年の『愛がなんだ』で社会現象的ロングランを記録し、「Filmarks」が発表した「2021年上半期 映画監督人気ランキング」では第1位。今泉力哉は名実ともに、いま日本映画界で最も支持を集める監督だ。
いかにして独自の作風が築き上げられたのか、そして10月15日に公開を控える最新作『かそけきサンカヨウ』にいたるまでを聞く。(構成:秋山直斗)
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注目の映画監督みたいな感じで取り上げていただいて、大変ありがたいんですが、正直畏れ多いし、実感もあまりないですね。実は1位になった「Filmarks」のランキングは、人気どうこうとは別の理由があって。僕が自分の映画の感想コメントに、ひたすら「いいね」をしてたら、ユーザーが僕を見つけてフォローし返してくれた結果、票が積み上がってしまっただけで。もちろん純粋なファンもいるとは思いますが。
いまだに「自主映画っぽい」と書かれたりしますし(笑)。僕の映画に「家の中で登場人物ふたりが話す」っていう自主映画でも描けるシーンが多いのは事実だし、芝居の演出も自主映画を作っていた時に培った方法論ですからね。ただ、自主映画の何が悪いんだと思いますけど。映画には「こんなスゴい映画は作れない」と思わせる映画と「自分でも作れそう。作ってみたい」と思わせる映画があると思うんですけど、最も影響を受けた山下敦弘監督の映画や僕の映画は後者のタイプ。でも、撮れそうと思っていざ真似してみると、簡単にはできないものを作ってる自信はありますが。
特にこだわってきたのは、役者からいかに良い芝居を引き出すかということ。というより、お金もなくて、自主映画時代は予算が1本10万円とかで短編映画を作っていたので、こだわることが出来たのは芝居だけだったんですよね。友人に役者として出てもらって、お金とは別の部分で映画を面白くできるのって芝居の演出しかなくて。短編映画も数十本は作りました。その中で、徐々に僕の作品に頻出する“間”を使った長回しの演出方法が出来上がっていったんだと思います。
“間”というのは、僕自身が想像してないことが起きないかなと、カメラを回しながら期待して待っている時間なのかもしれません。映画って脚本通りに撮ったら脚本通りのものしか出来ない。それだと物足りないというか、自分が楽しめない。だからこそ、“間”を使って役者にも一緒に試行錯誤してもらっているのかもしれないです。