テレビをつける。すると番組やCMでダンスをする絵が視界に飛び込んでくる。5分もあればそのようなことが起こる――。歌番組を見ていても、ダンサーが登場しないことは極めて珍しい。日本のダンス・シーンが「Jポップ」の世界を席巻しているといっても過言ではないだろう。
ここでは、音楽ジャーナリストの若杉実氏による『Jダンス JPOPはなぜ歌からダンスにシフトしたのか』(星海社)の一部を抜粋。現在まで連綿と続くアイドルダンス文化における「モーニング娘。」の影響力の強さを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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ミラーではなくコピー
ハロヲタがダンスへの自負をもっていることは、彼らが“至上の応援”として標榜する“ミラーではなくコピー”からも判断できる。振りを完コピするのはもちろんのこと、それはハロメン(ハロプロのメンバー)との面対称(ミラー)ではないことが、ハロヲタ最上級の認証基準を満たすとしているらしい。“ミラー”というのは舞台上の彼女たちを鏡像にして、おなじ振りをすること。彼女たちが右手を上げれば左手を上げる。しかしハロヲタの“コピー”とは、右手を上げれば自分たちも右手を上げる、という意味になる。
これを解説するにあたって、ふたつのことをセパレートして考える必要がある。ひとつには“ミラー”という見方がどうして引き出されるのかということ。そしてもうひとつが彼らにとっての“コピー”の重要性である。
そもそもミラーという発想そのものに、一般人には踏み込めないハロヲタの特異性が潜む。結論からいえば、その発想源はダンエボ(Dance Evolution)のような体験型ダンスゲームにあるのではないか。画像中のキャラクターは鏡像であるため、遊戯者は自分の姿が鏡に投影されたのとおなじように動きをマネしてプレーする。つまりそのような環境が日常化していなければ“ミラー”という発想自体、生まれにくい。
対象物にならってダンスをするばあい、本来であるなら対象物とおなじ動作になるのが通常である。右手が上がっているなら自分も右手を上げる。脳の中では対象物を自分の姿に置き換え事にあたるが、振りが複雑になればなるほど慣れるまでめんどうな作業がつづく。ダンススタジオでは講師と受講生がおなじ向きになって、前方の鏡の中の講師と自分を交互に観ながら動作確認をしていく。