定説に従えば、“ヲタ芸”なるものがささやかれはじめたのはモー娘。を中心としたハロプロからであり、さらに視点をフォーカスすると藤本美貴(第6期/5代目リーダー)のソロ「ロマンティック 浮かれモード」(2002年)が契機となった。ヲタ芸をするとき“踊る”ではなく“打つ”という表現が使われ、またその人物には“打ち師”なる固有名詞が与えられ、その打ち師はお気に入りの曲を“打ち曲”とクールに呼ぶことを好む。つまり「ロマンティック 浮かれモード」は最初期の打ち曲であり、この世界の金字塔に輝く。
“打つ”という言いまわしには隠語めいた響きがともなわれるが、同時にヲタ文化のコミューン意識、ある種の排他的思想すらおぼえさせられる。ただし基本動作である“コール”(間の手)や“MIX”(特定の掛け声)などダンスではない声援もふくまれることから、意味としてまちがいではない。
それでもハロヲタの応援にはありきたりのMIXを忌避する傾向がある。「ロマンティック 浮かれモード」のイントロでは“叩頭の礼”をしてからはじまるように、その作法はダンスではなくパフォーマンスの域におさまるもの。あくまでもハロメンを応援することが彼ら最大の任務だからであり、自己主張がすべての一般的なダンスでは理屈に合わない。
サイリウムダンス
いっぽうでハロヲタという歴史が今日あるのは“献身の美学”だけに裏打ちされているからではない。彼らはそのような“熱”を内面にこもらせるだけでなく、アウトプットしながら“サイリウムダンス”という独自のダンスを生んだ。文字どおりサイリウムスティック(ケミカルライト)を握った状態で、手の動きを中心にリズムがとられるダンスのこと。当初こそヲタ芸と同義語だったが、より複雑な振りが考案されることでダンス/スポーツとしての要素が加味されることに。結果ダンス→パフォーマンス→スポーツ→競技というように、文化の発展軌道に乗せることに成功、団体や協会の増加により世界規模のイベントが開催されるなど認知度を高めている。
道具(サイリウムスティック)を使用することが最大の特徴だが、これは“ファイアートーチ”の現代版に置き換えるとわかりやすい。サモアの伝統舞踊“ファイアーナイフダンス”他からヒントを得て生まれたのがファイアートーチで、仕組みはおなじ。サイリウムに代わって火のついた棒を両手に振り回す。サイリウムダンスのルーツといえるが、大胆にもこれを野外教育の一環として生徒に取り組ませてきたのが、名古屋市を中心とした愛知県の小中学校であった。県内に勤務していた学校教師が考案したことから70年代末から普及、伝統行事にまで浸透している。ただし県外を一歩出ただけでほとんどの学校では導入されず、謎もすくなくない。