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 しかし2019年夏に始まった『ドライブ・マイ・カー』の製作は簡単ではなかった。

「まず製作費で苦労しました。脚本があがった段階で、数千万円では済まない、億をかけないと成立しないことが分かりました。とはいえ前作の『寝ても覚めても』は作品評価も高く、興行的にもまずまずの成績を残せましたし、気鋭の濱口監督、原作は村上春樹さん、主演に西島秀俊さんをキャスティングできた。プロデューサーとしてはこの上ない掛け算ができたと思っていたんです。

 ところが最初に声をかけた会社には断られてしまった。おそらく文芸映画で上映時間も長そう、一般大衆受けをしないといった判断だったのではないかと思いますが、とてもショックでしたね」(山本氏)

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 既に西島氏のスケジュールを押さえ映画は走り出していた。毎日のように「やばいぞ、大丈夫か」と山本氏の会社の社長から問い合わせが来た。山本氏はそのたびに「大丈夫です」と返したものの、内心はヒヤヒヤだった。

 結局、ギリギリになって出資社が決まり製作委員会が立ち上がった。『ドライブ・マイ・カー』の現場製作費は約1億5000万円。これに文化庁の助成金などが加わるが、今回アカデミー賞に並んでノミネートされた他作品に比べて、遥かにわずかな予算であることは言うまでもない。

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 製作費に目処がつき、2020年3月にクランクインした『ドライブ・マイ・カー』。しかし、日本では公道で車が走るシーンを撮影するのが難しいため、当初は韓国の釜山が主な舞台になる予定だったという。そこにコロナ禍が襲来し、韓国での撮影は不可能に。そこから濱口監督は、いかにして広島での撮影にたどり着いたのか――。この記事の全文は、現在発売中の『週刊文春CINEMA!』に掲載されています。